「猫の病気といえば腎不全」と言ってもいいほど、腎不全になる猫が多いのをご存知ですか?腎不全とは、腎臓が本来の仕事をできなくなってしまった状態。放っておくと命を落とす怖い病気だから、早期発見・早期治療がとても大切です。
猫は体調不良でも弱みをなかなか見せません。早期発見のためには、飼い主が腎不全を理解し、その兆候である愛猫の小さな変化に気付けるようになることが大切です。
目次
猫の腎不全とは
猫の腎不全を知ろう!
猫の腎臓は、幅2〜3cm、長さ3〜4cm程度のそら豆形。腹の中の背中に近い所に左右二つあります。腎臓は「泌尿器」に分類される臓器。尿をつくるだけでなく、体内環境の維持にとても重要な仕事をしています。
腎臓の仕事
- 尿をつくる
- 血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄する
- 血液中の水分を尿として排泄したり、尿中の水分を再吸収したりすることで、体内の水分量を調整する
- ホルモンを産出する
- 赤血球をつくるように命令するホルモン(エリスロポイエチン)を産出する
- 血圧を調整するホルモン(レニン)を産出する
- 骨を強くするホルモン(活性型ビタミンD)を産出する
猫の腎臓は働きもの
猫の腎臓の特徴として、尿中の水分を再吸収する能力がとても高いという点があります。これは猫の先祖であるリビアヤマネコから受け継いだ特徴。
乾いた土地で生きるリビアヤマネコは、貴重な水を節約するために、尿から水分を積極的に再吸収して体内で再利用する能力を身につけました。猫の腎臓は水分の再吸収のために、毎日フル回転しているのです。
腎不全の特徴
腎不全とは、健康な腎臓の機能を100%とした場合に、その機能が50%以下に減ってしまい、正常な働きができなくなった状態。腎臓が尿をつくったり、ホルモンを産出したりできなくなる結果、様々な症状が出ます。
腎不全は急性と慢性の2種類あります。いずれとも命に関わる病気ですが、大きな違いとして完治の可能性の有無があります。
分類 | 原因 | 発病のスピード | 完治の可能性 |
急性腎不全 | 脱水、中毒、熱中症、尿路閉塞、心臓病(心筋症など)など | 急激 (数時間〜数日) |
あり |
慢性腎不全 | 加齢、他の腎臓病(急性腎不全、腎炎など)、感染症、遺伝的要因など | ゆっくり (数か月〜数年) |
なし |
猫は慢性腎不全が多い
猫で注目すべきは、慢性腎不全の発症率の高さ。なんと3匹に1匹の猫が慢性腎不全になるという調査結果があります。特に老齢猫の発症率は高く、慢性腎不全は猫の死因の上位にあります。
なぜ猫は慢性腎不全を発症しやすいのでしょうか?猫の腎臓は、水の再吸収のために毎日フル回転していて消耗しやすいのが、その原因のひとつ。つまり、老齢猫の慢性腎不全は、長年にわたる腎臓の酷使の結果で、老化現象とも言えます。
腎不全の予防
腎不全を完全に予防することはできませんが、そのリスクを減らすために、次のことを守りましょう。
- ワクチンを接種する(感染症予防)※感染症は猫の慢性腎不全の原因のひとつ
- 食事管理をする
- 人の食品は与えない(味が強すぎて腎臓の負担となる)
- 老齢猫には老齢猫用のフードを与える(腎臓の負担軽減となる)
- 新鮮な水が常に飲める状態にする(脱水防止)
- 室内飼いを徹底する(拾い食いによる中毒防止、感染症予防)
腎不全の症状
急性腎不全の症状は突然現れる
急性腎不全になると、突然に症状が現れます。日頃から猫を観察し、食事管理やトイレの掃除をきちんとしている飼い主であれば、急性腎不全の症状に気付くのは難しくありません。治療が遅れると命を落とす病気につき早期治療が大切。次の症状に気付いたらすぐに動物病院に行きましょう。
- 食欲がなくなる
- 元気がなくなる
- 寝てばかりいる
- 何度も嘔吐する
- おしっこの量が極端に減る/全くしなくなる
きつい口臭(アンモニア臭)や痙攣、体温低下、昏睡などの症状が出た場合は、尿毒症になっており、非常に危険です。尿毒症になる前の段階で異常に気付いて通院することが必要です。
慢性腎不全の初期症状はわかりづらい
慢性腎不全の症状が出るのは、腎機能が25%ほどにまで落ちた頃。飼い主が猫の様子がおかしいことに気付いた時には、慢性腎不全はある程度進行しています。
その初期症状は緩やかなのでわかりづらく、「老化現象かしら」と誤解してしまうことも。慢性腎不全の症状は、具体的に次のようなものがあります。
- 食欲不振とそれに伴う体重減少
- おしっこの回数が多い/おしっこの量が多い
- 水をたくさん飲む(おしっこの増加による脱水に伴う症状)
- 貧血(粘膜や歯ぐきの血の気がなくなり白くなる)
- 高血圧
さらに症状が進んで末期的になると、急性腎不全と同様に尿毒症に陥ります。
慢性腎不全の早期発見のために飼い主ができること
慢性腎不全であっても、早期発見して治療を開始すれば、猫は比較的長期間、穏やかに過ごせます。早期発見のために、飼い主ができることを紹介します。
そのためにも、猫の健康診断は定期的に行っておきましょう。健康診断のかかる費用などは、『定期的に必要!?猫の健康診断にかかる費用まとめ』の記事で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
月に1度の体重測定
2016年に発表された慢性腎不全の猫569匹の調査結果から、慢性腎不全と体重減少に関連があることが明らかとなりました。
- 慢性腎不全と診断される3年前から体重減少が始まる
- 慢性腎不全と診断される直前1年間で体重が8.9%(中央値)減少する。
「慢性腎不全の症状が出るのは腎臓の機能が25%に低下した頃」と先ほど説明しましたが、実はそれよりも前から、体重が徐々に減少することが明らかになったのです。
早期発見のため、慢性腎不全のリスクが増す老齢期以降(7歳以降)は、月に1度は体重測定しましょう。
体が小さな猫なので、数十グラム単位の体重減少が大きな意味を持ちます。グラフを作って、体重の変動が視覚的にわかる形で記録すると良いでしょう。もし体重が徐々に減少していることが判明したら、すぐに動物病院へ。
大人しくひとりで体重計に乗ってくれる猫であれば、人の赤ちゃん用のデジタル体重計での測定が、精度が高くてオススメ。ひとりで乗るのが無理な猫であれば、大人が使うデジタル体重計でも充分です。その場合の測定方法は次の通りです。
【猫の体重測定の手順】
- 飼い主が猫を抱いた状態で体重計に乗る
- 飼い主がひとりで体重計に乗る
- ①の測定値から②の測定値を引いて、猫の体重を算出する
定期的な検査
体重減少の有無問わず、半年〜1年に1度は、動物病院で血液検査や尿検査しましょう。最近、SDMAという物質を測定する血液検査が開発されました。従来の血液検査は、腎臓の機能が25%以下にならないと、異常値となりません。
しかし、SDMAは早いと腎機能が75%に低下した時、平均して60 %に低下した時から異常値となるため、従来よりも早期に慢性腎不全を発見できるようになりました。
より早い時期(かつ分かりやすい症状が現れる以前)に慢性腎不全の診断ができる検査が開発されたからこそ、これまで以上に定期的な検査の重要性が増したと言えます。
腎不全の治療の進め方
急性腎不全は完治を目指す
急性腎不全は、腎不全に伴う諸症状の治療と、その発症原因となった病気の治療により完治を目指します。集中的な治療が必要なので、入院することが多く、安くても数万円程度の治療費がかかります。
慢性腎不全は延命を目指す
慢性腎不全は完治しません。治療の目的は、症状の改善と病気の進行を遅らせることによる延命。基本的には定期的な検査、病状にあわせた点滴と内服薬治療がメインとなります。食事は腎不全用の療法食を与えます。
点滴(輸液)
点滴で水分を補給し、老廃物の排泄を促すことで、脱水や尿毒症を防止します。点滴は、病状によっては3日に1回〜1日2回必要。飼い主の仕事の都合などで通院が困難な場合は、飼い主が自宅で点滴する方法もあります。
ホルモン剤の投与
腎臓から産出されるホルモンの不足による症状(貧血など)がある場合は、ホルモンを薬で補給して症状を緩和します。
降圧剤の投与
高血圧になっている場合は、降圧剤の投与により血圧をコントロールします。
慢性腎不全は治療費が負担に
慢性腎不全は亡くなるまで治療を続けることになります。場合によっては何年にもわたる長期治療に。とすれば治療費も気になりますよね。治療費は動物病院が自由に決めるため、病院によりまちまち。あくまでも目安ですが、おおよその治療費は次の通りです。
- 診察料:500円〜1,500円
- 血液検査1回:3,000円〜15,000円(検査項目数によっても差がある)
- 点滴1回:2,000円〜5,000円(静脈点滴か皮下点滴かによっても差がある)
- 処方食:ドライタイプで1,500円〜/500g、ウェットタイプで150円〜/1個
もし、毎日1回の点滴と月に1度の血液検査を行う場合、ひと月の治療費が10万円以上、なんてことも。家計の大きな負担となります。その時に備え、猫が健康なうちにペットの医療保険に加入するのも良いでしょう。
ペット保険が必要か必要ではないかの議論は多くありますが、どんな人が入っておくべきかを、『将来が不安!猫にペット保険は必要かどうかを徹底検証!』の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
慢性腎不全は猫の宿命とも言える病気。治療を続けても、結局のところ慢性腎不全によって亡くなります。「それなら、高い治療費と時間を割いて治療をする必要があるのか」と思うかもしれません。
愛猫の治療方針を決めるのは飼い主。だから積極的な治療をしないという選択もあります。信頼できるホームドクターに相談し、納得できる治療法を選択することが必要です。
ただ、どのような選択にせよ、猫の痛みと苦しみの軽減が第一優先されることを願います。