普段と何も変わらない気がするのに、ある日突然ペットシーツについているおしっこや、散歩の途中でしているおしっこを見て、赤かったらとてもびっくりしますよね。
それは血液そのものなのでしょうか?それともいわゆる”血尿”なのでしょうか?
血液なら、どこから血が出ているのか気になりますし、血尿であれば外からは原因がわからないので、もっと不安になりますよね。見た目だけでは何だかわからないとなれば、不安度は更に上がってしまうでしょう。
ここでは、そんな不安をもたらす血尿や血尿に間違えそうなものの原因を紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
犬が血尿した時に考えられる原因
血尿と一言で言っても、明らかに血尿を出している姿を見ていれば判断ができますが、ペットシーツなどに痕跡があった場合は、見た目が血尿に見えるという判断になると思います。主に考えられる原因は以下の8つです。
- 尿路感染症
- 尿路結石症
- 腫瘍
- 中毒
- 外傷
- 前立腺疾患
- 未避妊のメスの病気
- フィラリア症など
尿路感染症
尿路感染症とは、尿路(腎臓−尿管−膀胱−尿道)のどこかで感染症が起きることです。血尿や頻尿が続いたり、排尿痛があったり、感染により尿の臭いがきつくなり、不快感から陰部をなめたりします。
尿路感染症の主な原因
- 細菌感染
→直接の原因で多いのは大腸菌で、皮膚や腸(糞便由来)にいる細菌が尿道から膀胱へ、更には腎臓へと上がっていくこともあります。 - 尿の我慢
→尿を我慢している時間が長いと、尿によって原因菌が外に流されるチャンスが減ることも問題です。
尿路感染症の治療方法
まずは尿路感染症の原因菌を突き止め、細菌類であれば抗生物質、炎症には消炎剤を使うこともあります。尿がたくさん出ることで洗い流す効果もあるので、お水を沢山飲ませて尿量を増やすことも必要です。
尿路結石症
尿路結石症とは、一般的にはメスに多く、尿路(腎臓−尿管−膀胱−尿道)のどこかで石(結石)が出来ると、尿を排泄する時に膀胱や尿道を傷つけてしまい、痛みを伴う頻尿や血尿になることがあります。場合によっては結石が詰まって尿が出なくなる緊急事態が発生します。
尿路結石症の主な原因
- 尿路感染症
→結石が出来る原因の一つは尿路感染症です。炎症が起きた結果、尿路の細胞がダメージを受けてはがれ落ちる為、それが尿の中に溜まっていき、結石を作ります。 - フード
→食べているフードの成分などによっては結石が出来ることがあります。 - 水分
→例えば、冬などは夏よりも飲水量が減るので尿の量も減り、結石が出来やすくなります。 - 先天性
→肝臓に先天的な問題(門脈シャント:肝臓にある血管の異常)がある、遺伝的にこの病気になりやすい、などが挙げられます。
結石の種類
結石は成分によって分類がされています。
- ストルバイト(リン酸アンモニウム・マグネシウム)
- リン酸カルシウム
- シュウ酸カルシウム
- 尿酸塩
- シスチン
- ケイ酸塩
- これらの混合の結石
結石が出来やすい主な犬種
実は結石の成分によって好発犬種(発症しやすい犬種)がいます。それぞれの結石の種類毎に発症しやすい犬種を以下に記しています。
- ストルバイト
→シーズー、ミニチュアシュナウザー、ビションフリーゼなど - シュウ酸カルシウム
→ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、ミニチュアプードル、シーズー、ビションフリーゼなど - リン酸カルシウム
→ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、コッカースパニエルなど - 尿酸塩
→ダルメシアン、ブルドッグ、など。 - シスチン
→バセットハウンド、ブルドッグ、ダックスフンド、ダックスフンドなど - ケイ酸塩
→ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど
尿路結石症の治療方法
尿路結石の治療方法ですが、結石が小さい場合は、内科治療(抗生物質や消炎剤など)と処方食で尿の状態をコントロールします。尿がアルカリ性になることで出来るストルバイトは、処方食で尿を酸性にして溶けるのを待ちます。
フードで溶けない結石の場合は、処方食を食べてそれ以上結石が出来ないようにすることと、自然に排泄されるのを待つ、あるいは、自然排泄ができない大きな結石は手術で摘出します。
万が一、結石が詰まってしまい、尿が出ない場合には急性腎不全を起こして亡くなることもあり、この場合には一刻を争う処置(詰まりを解除する)が必要です。
これはメスに比べて尿道の長いオスに多いので、特にオスの犬の飼い主さんは注意が必要です。治療後は定期的な尿検査が必要で、処方されたフードは獣医師の指示がない限りは変更ができません。
腫瘍
腫瘍ができた場合は、良性・悪性に関わらず出血して血尿を招くことがあります。その場合には悪性のことが多く、ここでは悪性の腫瘍について説明します。
腫瘍の主な原因
ペットの膀胱癌はまだまだ不明な点ばかりです。ここであげる原因はリスクを高める可能性があるという意味で、必ず発症するという訳ではありません。
- 環境因子
→かなり以前の時代に使われていた皮膚に塗布するような殺虫剤やシャンプー(ノミ・ダニ駆除剤など)や除草剤などに長期間さらされていたことで、膀胱癌のリスクが高まることがわかっています。 - 抗がん剤
→サイクロフォスファミドという抗がん剤が原因になります。 - 遺伝
→ウエストハイランドホワイトテリア、ビーグル、シェットランドシープドッグ、スコティッシュテリアなどは膀胱癌になりやすいとされています。 - その他
→肥満であったり、オスよりもメスの方が統計的にリスクが高くなっています。
(参考:Glickman et al. J Toxicol Environ Health.1989;28(4):407-14.他 )
腫瘍の治療方法
腫瘍ができた場合の治療方法は、内科的な化学療法、放射線療法、外科的に腫瘍を切除する治療がありますが、進行度や症状に合わせて方法を検討していきます。残念ながら予後はあまりよくありません。
中毒
毒物などを誤って食べてしまった場合、血尿が出ることがあります。
中毒になる主な原因
- 殺鼠剤
→殺鼠剤で使われている薬物では血液が固まらなくなるものがあります。この場合は、元気がない、食欲がない、など、他の症状も出てくることが多いです。
中毒になった犬の治療方法
食べてしまった毒物を確認し、出ている症状に対して対症療法を行います。殺鼠剤の場合には、輸血が必要になることもあります。
外傷
尿路のどこか、或いは陰部に近い外側の部位に傷がある為に出血することがあり、結果的に血尿となります。
外傷の主な原因
- 外傷
→交通事故や落下、打撲などで膀胱が外側からの衝撃によって傷つくことがあります。
外傷の治療方法
出血の状況に応じて、止血剤や二次感染予防に抗生物質などを使います。
前立腺疾患
オスの前立腺は精液の一部を作ったりする器官で、膀胱の後ろにあります。
前立腺が何らかの原因で大きくなると、一般的には尿道粘膜を圧迫して出血しやすくなります。尿が出にくかったり、血尿、直腸の圧迫による排便困難も見られることがあります。
前立腺疾患の主な原因
- 前立腺肥大
→5歳以上になると人間と同じように前立腺が肥大して、稀に血尿になることがあります。 - 前立腺炎
→細菌感染が最も多い原因で、尿道から感染が広がることで起こり、炎症によって出血しやすくなるため、結果的に血尿が見られます。 - 前立腺膿瘍
→細菌による前立腺炎から膿瘍(膿の袋)ができたり、前立腺嚢胞(以下を参照)に細菌感染が起きたことで発症します。膿は尿道に排出されるので、膿の混ざった尿(白濁した)をすることもあり、排尿時の痛みや発熱も見られます。 - 前立腺嚢胞
→前立腺肥大の結果、前立腺の中に袋ができて分泌液が溜まることがあります。この分泌液に血液が混じることが多く、尿道から外に排出された時に、一見血尿のように見えます。 - 前立腺腫瘍
→正確な原因は不明ですが、オスのホルモンが関係しているとされており、高齢になると発症するリスクが上がります。
前立腺疾患の治療方法
前立腺肥大は去勢をすることで治まります。その他の前立腺の問題は、再発予防の去勢に加えて前立腺を摘出する必要がある場合があります。高齢犬の場合には手術のリスクもあるので、十分検討が必要になります。
未避妊のメスの病気
まだ避妊手術を受けていないメスの発情出血は血尿ではなく、血液が出ているだけですが、初めてだと飼い主さんは混乱してしまいます。発情出血以外に病気が隠れている場合もあります。
出血してしまう主な原因
- 発情
→これは生理的な現象で問題ありません。陰部をよく見てみると腫れているのがわかるはずです。しかし、血液だけでなく濁ったような分泌物が混じっている場合には子宮蓄膿症も考えられますから、念のための獣医師チェックをおすすめします。 - 子宮蓄膿症
→子宮に膿が溜まる病気で、原因は細菌感染です。高齢犬に多く、発情出血があってから1ヶ月ぐらいした頃に発症することが多く、ホルモンが関係しています。元気や食欲がなくなり、陰部に濁った分泌物が付いていたりします。重症例は亡くなることがあります。
出血した場合の治療方法
繁殖を希望しない場合には避妊手術を行います(子宮蓄膿症では再発防止に必須です)。犬は人間と異なり閉経がありません。早期に避妊手術を行うことで子宮蓄膿症や乳腺腫瘍などを予防でき、犬の体に負担が少なくて済みます。
フィラリア症
フィラリア症とは、フィラリア成虫の感染により赤褐色の血色素尿(血液の中の赤血球が壊されて、血色素が尿に混じる)が出ます。
フィラリア症の主な原因
- フィラリア(犬糸状虫)
→蚊からうつる線虫で心臓の右側に寄生していますが、重症になると心臓の弁に虫が絡まって、急性の大静脈症候群(ベナケバシンドローム)を起こし、赤褐色の血色素尿が出ます。
フィラリア症の治療方法
成虫は心臓に寄生しているので、大静脈症候群(ベナケバシンドローム)の際には手術により摘出しますが、非常に危険な状態で手術をするので、手術中に亡くなることもあります。
慢性のフィラリア症は、心臓に負担がかかっているので、フィラリアをこれ以上増やさない治療と心臓の治療の二方向から行います。
犬が血尿をした時の対処法
ここまで、血尿の考えられる原因やそれぞれの治療方法について紹介してきましたが、続いて飼い犬が血尿のような症状があった時の対処法について説明していきます。
飼い犬とお散歩している先や、ご自宅でペットシーツに血尿を発見したら、まず次のことを確認してください。
犬の血尿を見つけたらチェック
飼い犬は現在、元気がありますか?元気がない場合はすぐに動物病院へ連絡して下さい。待っている暇はありません。
元気がある場合は、以下のことをチェックしてみてください。
- 最近は、ずっと元気にしていましたか?
- 最近、ご飯は普通に食べていましたか?
- 最近のおしっこの回数や量は変わっていませんでしたか?
- フードのブランドや種類はわかりますか?
- 避妊してないメス犬の場合は、最後の発情がいつですか?
- オス犬の場合は去勢をしていますか?
- ワクチンやノミ・ダニ、フィラリア予防はしていますか?
これらを確認したら病院へ連絡して、上記の内容を伝えて獣医師と相談して下さい。血尿以外の情報があることで、病院での受診がよりスムーズになります。
まとめ
血尿の背後に隠れている理由をいくつか挙げて見ましたが、年齢や食べているフード、オスとメスの違いなど、様々なことが絡んですぐに診断することは難しいです。
一度でも血尿と思われるものを発見した場合には”様子を見てみる”ではなく、”とりあえず獣医師に相談してみる”が正解だということを忘れないで下さい。
例えば、発情出血がわからなくて恥ずかしかった、と言った話がありますが、獣医師はそういう飼い主さんの為に病院のドアを開けて待っています。