「うちの犬は耳垢が多くて大変なんです。」
「いつも綺麗にしてあげないとすぐに垢が出て、ニオイもするんですよ。」
そんな飼い主さんのお話をよく耳にしますが、もしかして、それは外耳炎ではないですか?飼い主さんの言葉だけでは診断はできませんが、”耳垢が多い”と”ニオイ”は、外耳炎では切ってもきれない大事なサインです。
動物病院では犬の外耳炎に遭遇する機会が非常に多く、子犬の初めてのワクチンの段階で、すでに発症している例も少なくありません。
耳の入り口から鼓膜までのを外耳道と言い、この部分が何らかの理由で急性、或いは慢性に炎症を起こすことを外耳炎と言います。
炎症を起こす原因はアレルギーなどがありますが、かゆみや耳垢(医学的には”じこう”と言います)が出て、二次的に細菌や真菌(カビ)の感染も起き、独特の嫌なニオイもしてきます。
症状が進むと出血して膿が出たり、鼓膜がダメージを受けて、更に耳の奥まで炎症が起きる中耳炎にもなるかもしれません。ここでは、なぜ犬が外耳炎になりやすいのか、その原因や治療法などを詳しく解説していきます。
目次
犬が外耳炎になる考えられる原因
外耳炎は両方の耳だったり、片方の耳だったり、発症する時期も様々ですが、高温多湿の日本の夏はなりやすい季節と言えるでしょう。
原因は、もともと犬の耳の構造がなりやすい、或いは、体質などが挙げられますが、それ以外にも考えられます。
放置しておくと、犬は耳を掻きむしったり、首を振ったりして、必死に痒みと戦いますが、やがて外耳道の炎症は出血を招き、二次感染が悪化、中には中耳炎まで起こし、首を傾けた状態になったり、耳が聞こえなくなることさえあります。
何度も再発し、ついには慢性化してしまった場合には、外耳道が分厚く肥厚したまま狭くなり、通気性が悪くなるので、更に状態は厳しくなります。
この病気は早く気づいてあげないとすぐに悪化してしまう為、病気の原因を理解することは予防にも繋がります。早速、犬の耳の構造、具体的な原因、飼い主さんが注意すべきこと、といった点を中心に説明します。
犬が外耳炎になりやすい理由
犬の外耳炎と耳の構造
犬の耳は人間の耳とは異なり、耳の入り口近くは水平ではなく、少し下に向いています(垂直耳道)。下を向いている部分から少し進むと水平(水平耳道)になります。
この”L字型”の外耳道は通気をブロックします。犬によっては耳介と呼ばれる耳のピラピラした部分が垂れ下がって、まるで蓋をしているように見えるのです。
中には耳の中に毛が生えている犬種もいて、これらの耳の構造から耳の中の通気性が悪くなり、外耳炎を誘発すると言えます。
犬の外耳道の湿気
飼い犬は、割と頻繁にシャンプーをすることがあるので、耳に水が入ることは多いと言えます。
海や川で遊ぶなどをすると、更に、そういったリスクは上がるのです。水により、しっとりした環境が整うと、細菌や真菌などを増やす結果になります。
過剰な犬の耳掃除
これは、意外と気がつかないことですが、人間も耳掃除のやりすぎは耳鼻科の医師に注意されたことがあるかもしれません。
耳掃除は必要な時にやるべきであり、決めた曜日にやる、といったものではありません。汚れるから頻繁にやる、という大きな間違いをやってしまっている飼い主さんは多いです。
汚れる理由を先に突き止めて、正しい洗浄を獣医師に指導してもらうようにしましょう。
過剰な薬剤の乱用
一度外耳炎になってしまうと、何度も再発することがあります。
飼い主さんも、だんだんそれに慣れて来て、前回使った薬がまだ残っている、といった状況で使い始めてしまい、受診せずにそのまま”何となく”使い続けてしまった際に、薬でかぶれてしまう犬もいます。
間違った薬剤の投与
再発した時に、実は原因が前回とは異なるのに、受診せずに残っていた薬を使ってしまった、或いは、同居の犬が使っていた薬を使ったら、全く効かなくてひどくなった、などで困って受診される方がいらっしゃいます。
原因が異なれば、使う薬も異なりますから注意しましょう。
犬が外耳炎になる具体的な原因
外部寄生虫
耳ダニは耳の中(耳ダニ)に寄生して、激しいかゆみと炎症反応が出て、特徴的な黒い乾いた耳垢を排出します。
ニキビダニ(毛包虫)が皮膚の中に大量に寄生している場合も、耳垢が非常に多く出て外耳炎になってしまうことが多いです。
アレルギー
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーを患っている犬の多くは両耳に外耳炎を同時に発症しています。中にはアレルギー症状が外耳炎のみということもあります。
外耳道でアレルギーによる炎症反応が起こると、耳垢が増えて病原菌も増えやすい環境が出来上がります。その結果、特に真菌(マラセチア)の問題が出て来ます。この場合は外耳炎とアレルギーの治療が必要です。
この他、外耳炎の点耳薬に対する過敏な反応で外耳炎が酷くなることもあり、なかなか改善しない場合は、薬剤の成分にも注意が必要です。
細菌・真菌感染
アレルギー性皮膚炎以外でも、シャンプーなどでいつも外耳道がしっとりしやすい、耳が垂れていて通気性が悪い、というタイプの犬は、たまたま細菌類(ブドウ球菌や緑膿菌など)や真菌類(マラセチアやカンジダなど)が増殖するのに適切な環境を作り、結果的に外耳炎を招くことがあります。
内分泌の病気
ホルモンが関係する病気で、代表的なものは甲状腺機能低下症ですが、これは甲状腺ホルモンが出なくなる為、皮膚症状と一緒に外耳炎が現れることがあります。
腫瘍
外耳道のどこかに腫瘍がある場合に、そこから出血をしたり、腫瘍が存在することで外耳道の通気が悪くなり、二次感染を起こしてしまう場合もあります。
異物
耳の中に散歩中に植物や、小石、虫が入り込んだりすることで、炎症が起こる可能性があります。耳掃除をした際に、綿棒などを無理に押し込んでしまい、外耳道を傷つけると炎症が起こることも考えられます。
自己免疫疾患
自分の体に対して免疫反応が出てしまう病気ですが、例えば若年性蜂窩織炎(幼犬で稀に起きる化膿性皮膚炎)という症状がある場合に、外耳炎を併発します。
脂漏症
遺伝的にパサパサしたフケが出る一方、皮膚が脂っぽくなってしまう脂漏症を発症している犬は、耳垢が多く、二次感染から真菌による外耳炎を起こしていることが多いです。
犬の外耳炎で注意すべきポイント
自宅で飼い主さん自身で出来ることが何かあれば、万が一、外耳炎になっても早期に治療開始が期待できます。
以下に、外耳炎で主に出てくる症状と予防をまとめてみます。これらを知ることで、素早く病院に連れて行く判断ができるでしょう。
犬の外耳炎の主な症状
- 耳を頻繁にかく
- 首をよく振る(耳が痒い為。)
- 耳が臭い
- 耳垢が多い
- 耳が赤い
- 耳が腫れている
- 耳を触らせない(痛い場合。)
犬の外耳炎予防
- 動物病院で定期的に耳掃除を行う(獣医師と相談して間隔を決めましょう)
- 動物病院で耳毛を抜去する(耳毛がある犬は、多少抜去が必要です)
- 自宅で耳掃除を行う場合は、綿棒を使わない(必ず獣医師の指導を受けてから行いましょう)
- シャンプー後は、しっかり乾燥(耳の穴周辺は、優しくふき取リましょう)
- 普段から耳の観察を行う(かゆみ、耳垢、臭い、耳毛、など。異常を見つけたら、即病院へ)
外耳炎にかかりやすい犬種
耳の構造からわかるように、犬によっては解剖学的に外耳炎にかかりやすい犬種もいますが、犬種の遺伝的な体質が原因となる場合もあります。代表的な犬種を見てみましょう。
垂れ耳
- コッカースパニエル
- ビーグル
- バセットハウンド
- ゴールデン・レトリバー
- ラブラドール・レトリバー
- ミニチュア・シュナウザーなど
外耳道の毛
- プードル
- シーズー
- シュナウザー
- ビション・フリーぜ
- ウエストハイランド・ホワイト・テリア
- マルチーズ、などテリア種
外耳道狭窄(狭い)
- イングリッシュ・ブルドッグ
- チャウチャウ
- シャーペイなど
アトピー性皮膚炎から外耳炎になりやすい犬種
- フレンチ・ブルドッグ
- パグ
- ラブラドール・レトリバー
- ゴールデン・レトリバー
- ボクサー
- シャーペイ
- シーズー
- コッカースパニエル
- ウエストハイランド・ホワイト・テリア
- ミニチュア・シュナウザー
- ワイヤーヘアード・フォックステリア
- アイリッシュ・セッター
- イングリッシュ・セッターなど
脂漏症から外耳炎になりやすい犬種
- アメリカンコッカースパニエル
- イングリッシュ・スプリンガースパニエル
- バセット・ハウンド
- ウエストハイランド・ホワイト・テリアなど
(以上、参考文献:Small Animal Dermatology 2nd edition,CLINICAL VETERINARY ADVISOR 2nd edition)
犬の外耳炎の治療法
病院で実際にどのような形で治療が行われるのか、検査から治療までの一通りの流れを説明します。症状が軽い場合でも、最低1ヶ月は治療と経過観察が必要となります。
途中で治療をやめてしまうと、後になって再度治療を希望した場合に、更に時間と費用がかかってしまう結果になりますから、根気も必要です。
外耳炎はアレルギーが絡んでいることが多い為、”再発があるかもしれない”という可能性も理解しなければなりません。
外耳炎の治療の流れ
①耳鏡検査
耳鏡を使って外耳道の状態を確認します。あまりにも耳垢が多い場合は、先に耳垢を除去しておく必要があるので、順番が前後することがあります。
②耳垢検査
病院によっては飼い主さんの費用負担を考えて耳垢検査を実施せずに、外側から診た症状で点耳薬や内服薬を処方する場合もあります。
しかし、基本的には必ず両耳(片方だけが症状があったとしても)から採取した耳垢(直接と染色した物)を顕微鏡でチェックします。
この段階で、耳ダニ、細菌類、真菌類、細胞、などの確認をして処方する薬を決めていきます。
③外耳処置
検査する前に外耳道を十分に洗浄しきれていない場合には、最後に時間をかけて洗浄液を直接外耳道に注入して、よくもんで耳垢を溶かして、首をブルブル振らせたり、拭き取りを行います。
獣医師は必要に応じて綿棒を使用することもありますが、飼い主さんは指示がない限り真似をしないで下さい。
④症状が重症の場合
外耳道がただれて、痛みから触れない状態の時には、まず先に耳垢検査だけは行いますが、あとは触らずに内服薬や注射などで炎症や感染を抑えることから始めます。(特に重症で痛みから攻撃的になり、手をつけられない場合には、麻酔下で処置が必要になることもあります)
数日間、内服薬なので症状を落ち着かせてから、少しずつ耳鏡検査などを行って処置を進めて行きます。
⑤療法食
慢性や再発の多い外耳炎はアレルギー性皮膚炎が疑われる場合がある為、アレルギーが起こりにくいフードを食べるように指示されることが多いです。
外耳炎の治療費用の目安
症状が軽い場合と重症な場合とでは、費用はかなり差が出て来ます。例えば、耳を触らないようにするエリザベスカラーだけでも、1,500円以上はするので、治療そのものだけではないことも考慮しなければなりません。
症状が重篤な場合は、注射による即効性を期待するので、その分、費用も上がります。以下にベーシックな都内一般の目安となる値段を紹介します。
症状が軽い場合
初診料 | 1,000円〜1,500円 |
耳垢検査 | 1,000円〜1,500円 |
外耳処置(耳掃除) | 1,000円〜1,500円 |
点耳薬 | 2,000円〜 (耳ダニに対する薬剤、真菌性外耳炎などで毎日点耳するタイプ、1週間に一度のタイプがあり、値段の開きは大きいです。) |
合計 | 7,000円程度 |
※療法食なしで10,000円を超える場合は、高いイメージ
症状が重い場合
症状が軽い場合(7,000円程度)に加えて処置の内容が複雑化したり、注射や内服薬などがあり、10,000円を超えることが多いです。
なるべく症状が軽い段階で病院に連れて行くことで、犬と費用の両方が助かりますから、日頃からの観察が大事です。追加として必要と思われる費用は以下の通りです。
内服薬1週間分(1種類) | 1,500円〜2,000円 |
外耳処置(麻酔なし、普通の外耳処置より洗浄が大変な場合) | 2,000円〜 |
注射1本 | 1,500円〜 |
まとめ
外耳炎はどの動物病院でも、必ず1週間に何件かは診察しています。それだけ、多くの犬が悩んでいる病気ですが、治療が簡単なようで簡単ではありません。
真菌が出ているなら抗真菌剤で治るはずだ、と思っていると、実はアレルギーの問題が後ろに隠れていて、それを見落としてしまうえば、いつになってもなかなか落ち着きません。アレルギーだと決めつけてしまうことも危険です。
ここで説明した内容が我が子に合致しているかは、獣医師の確認がなければわかりません。少しでも痒みが出ているように見えたら、まずは獣医師に相談をして、最初の第一歩から踏み外さないように気をつけましょう。
耳が痒いのを我慢することは、犬にとっても大変なストレスですし、飼い主さんも痒がっている姿を見ているのは苦痛ですから、早急に病院へ連れて行ってあげて下さいね。