「ちょっと様子を見てみよう」咳する猫を見て、そう思った方!ちょっと待ってください。
その咳は大きな病気のサインかもしれません。もちろん、病気でなくても咳をすることはあります。
でも、猫は咳が出る病気になりやすいのも事実。物言えぬ猫が「咳」で病気のサインを送っているとしたら……その大事なサインを見落とさないために、猫の咳についてきちんと知っておくことが大切です。
目次
猫に咳が出る時の考えられる原因
これが猫の咳!?
「吐こうとするけど吐けなくて、苦しそうなんです」と動物病院に来た飼い主。
獣医師から「それは咳ですね」と言われてビックリ…こんなことがよくあります。咳と言っても猫の咳の仕方は人とは違います。「咳をしているな」と分かってあげること。これが大事な第一歩です。
猫はこうやって咳をする
猫の咳の基本姿勢は「四つんばいでうずくまり、首を伸ばして頭を下げる」。この姿勢で、「ケッケッ」「フンフン」「ゼーゼー」「ヒーヒー」「グーグー」と鼻やノドを鳴らして苦しそうに呼吸したら、それが「猫の咳」です。
先程も伝えた通り、咳と言っても人間とは違うので、非常にわかりづらいです。念のためわかりやすいように猫の咳の動画をご紹介します。
そして、猫の咳と切っても切り離せない症状に「逆くしゃみ」があります。原因がくしゃみと同じ「鼻の違和感」なので「くしゃみ」という名前がついていますが、人のくしゃみとは全く様子が違います。むしろ咳によく似た症状です。今回は「逆くしゃみ」も咳のひとつとして取り扱います。
嘔吐や悪心(気持ち悪い)と間違えないで
猫の咳を「嘔吐」や「悪心(気持ち悪い)」と間違えてしまうのは姿勢や音が似ているから。もちろん吐物を確認できればすぐに嘔吐とわかりますが、気持ち悪くても吐物が出ない場合があるからこそ「咳」と「悪心」を間違えてしまうのです。
でも大丈夫。「音が鳴るタイミング(息を吸うときか吐くときか)」と「音の鳴り方」をよく観察すれば、区別できます。
- 咳(「逆くしゃみ」以外)
→鼻やノドを鳴らしながら息を吐く - 逆くしゃみ
→発作的に鼻から息を吸う仕草を繰り返し、息を吸うときに鼻の奥から「グーグー」と音が鳴る。 - 嘔吐・悪心
→発作的に息を吸う仕草を繰り返し、息を吸うときにノドや胸から「ゴロゴロ」「ギュー」と、液体物が動いているような音が鳴る。
息を吸っているのか吐いているのかは、体の動きを見ればわかります。胸からお腹にかけて膨らんだときが息を吸っているとき。へこんだときが息を吐いているときです。
ひとつ注意しなければならないのは、嘔吐によって咳が出たり(吐物にノドを刺激されて咳をする)、咳によって嘔吐したり(咳によって気持ち悪くなる)する場合もあるということ。つまり同じタイミングで両方の症状が出ることがあるのです。
猫は吐くことが多い動物。だからと言って、「また気持ち悪いのか」と苦しそうにしている猫に目を向けなくなってしまってはいけません。咳の可能性もあることを意識して、いつでも猫の様子をしっかり観察する癖をつけましょう。
猫のくしゃみの原因については、『猫がくしゃみをしている原因は?病院へ連れて行くべき?』の記事で詳しく解説しています。
くしゃみと咳の区別
まず知っておいてもらいたいことがあります。くしゃみも咳も「吸い込んだ異物を体外に出すための反射」。異物がついた場所の違いによって、くしゃみが出るか、咳が出るかの違いが出ます。
- くしゃみ:鼻の粘膜に異物がついた場合
- 咳:気管や気管支に異物ついた場合
病的なくしゃみや咳については、その病変が鼻の粘膜にある場合は「くしゃみ」、気管や気管支、肺などにある場合は「咳」となります。
獣医療におけるくしゃみと咳の区別の現状
人では自覚とコトバがあるため「くしゃみ」と「咳」を明確に区別できます。また人の咳とくしゃみは、仕草が全く異なるので、第三者から見ても、すぐに見分けがつきます。
一方で、動物は「今はノドに違和感があったので咳」「今は鼻に違和感があったのでくしゃみ」と教えてくれません。
人のようにくしゃみと咳とを仕草だけで明確に区別できないことも多いです。例えば「逆くしゃみ」については、基本的には「鼻の違和感」で出る症状と言われているので、人の分類で言えば「くしゃみ」です。でも、その仕草はくしゃみというよりは「咳」です。
口を閉じてればくしゃみ、開けていれば咳、と区別できますが、咳の時に口を少ししか開けていないことが多く、見分けるのが難しいのが現状です(もちろん、分かり易くくしゃみをすることもあります)。
以上のことから、獣医療では一般的に、「呼吸器系の症状」として両者をまとめて取り扱います。そして診断の結果、鼻に病変があれば「くしゃみ」、気管などに異常があれば「咳」と区別します(その区別にはあまり意味はありませんが)。
また、飼い主に分かりやすく説明するために、「くしゃみ」「咳」という言葉を使い分けることはあります。
異常な咳を見分けるポイント
咳の原因
人と同じように、猫にも生理的な咳(病気ではない)と、病的な咳があります。生理的な咳は、体の正常な反応として出るもので、心配する必要はありません。
病的な咳は、感染症やアレルギー、がん、心臓病など、その原因はさまざま。「咳でしょ」とあなどっていると、命にかかわる場合もあるのです。
大丈夫な咳(生理的な咳)
水を飲んでむせたり、ノドに食べ物が引っかかったり、鼻やノドにホコリなどの異物を吸い込んだりした際に、それを出すためにする咳。これが「生理的な咳」で、心配いりません。通常は数秒〜数分でおさまり、1日に何度も繰り返すようなこともありません。
「逆くしゃみ」は原因不明なことが多く、生理的な咳のひとつで病気ではないと考えられています。ただし、日常的に繰り返す場合は、病的な咳の場合もあるので注意が必要です。
心配な咳(病的な咳)
咳以外の症状(元気消失、食欲不振、血の混じった鼻水やよだれ、目ヤニなど)がある場合は、病気の可能性があります。すぐに病院に行くべきです。咳以外の症状がなくても、咳を繰り返す場合は、やはり病気の可能性があります。
いずれにしても、日頃から猫としっかりとコミュニケーションをとり、小さな異変にすぐに気づけるようにしましょう。
猫の咳で疑われる病気
猫に病的な咳を引き起こす病気はたくさんあります。その中で発生率が高いものを紹介します。
猫風邪(猫ウイルス性鼻気管炎/上部気道感染症)
猫の感染症の中で最も発生率が高く、よく見かける病気が猫風邪です。咳以外に発熱や鼻水、目ヤニなどの症状がでます。それほど危険性は高くありませんが、子猫や老猫では注意が必要です。
猫風邪については、『猫風邪はただの風邪?かかった時の症状と対処法』の記事で詳しく解説しています。
猫喘息
ハウスダストや花粉などのアレルゲンや刺激(冷気、香水の香り、煙など)に反応して発症すると考えられています。
心臓病
心臓の機能が低下すると血液の循環が滞り、肺に水が溜まります。それが刺激となって咳がでます。猫では特に「心筋症」という心臓病が多く見られます。
がん
鼻の中や肺など、空気の通り道にがんができると、それが刺激となって咳が出ます。胸水が溜まるがん(縦隔型リンパ腫など)になった場合も咳が出ます。
これ以外にも咳を起こす病気はたくさんあります。病気によって危険性や治療法もさまざま。信頼できる動物病院に行って、きちんと診断してもらいましょう。
猫の咳が止まらない時に飼い主がとるべき対処法
まずは様子を観察
猫が今まさに目の前で咳をしている場合、あせらずまずは観察しましょう。携帯電話などで動画を撮影できるなら、すぐに撮影。動物病院でその動画をみせることで、診断の助けになります。
咳がおさまったところで全身チェック
目つきはしっかりしていますか?口を開けて呼吸していませんか?鼻血は出ていませんか?呼びかけに反応しますか?歩けますか?食欲はありますか?他にもひとつでもいつもと違うところを見つけたら、病院に行きましょう。
もし咳以外の異常がなければ、しばらく様子を見てもいいでしょう。ただし、咳を繰り返すようならやはり病院に行くべきです。その際には、次の点を獣医師に伝えるようにしましょう(次の点を意識して猫の様子を見てください)。
- 咳の頻度
- 咳の継続時間(1回にどれくらいの時間咳が続くか)
- 咳をするタイミング(興奮した時、寝起き、食後 など)
- 咳をする時間帯(明け方、夜 など)
- 咳をする気候や季節(暑い時、寒い時、春、夏 など)
生理的な咳を繰り返す場合
繰り返す咳。でも動物病院に行っても異常は見つからない…そんな時は、毎日の掃除をいつもより少し頑張ってみてください。生理的な咳の原因のひとつがホコリなどの吸い込み。部屋の掃除が足りていないのかもしれません。
猫の側でタバコを吸っていませんか?もしも吸っている場合には、控えましょう。人と同じように猫もタバコの煙で咳こむことがあります。
猫のいる場所でタバコを吸ってはいけない理由を、『絶対NG!猫の前でタバコは吸ってはいけないこれだけの理由』の記事で解説していますので、喫煙者の方は参考にして一度考え直すきっかけにしてみてくださいね。
まとめ
必ずしも病気とは言えないからこそ、「病院に行った方がいい?」と悩むことが多い猫の咳。まずは猫の様子(どのように咳をするか、咳以外に症状はあるか)をよく観察すること。その大切さをお分かりいただけましたか?
「大丈夫な咳とは思うけど、やっぱり不安」そう思うなら迷わず病院へ。少しでも不安を覚えるならば、病院にいくことは無駄ではありません。その「不安」が病気発見のキーになるかもしれないのです。
咳に限らず、猫についての不安はそのままにせず、できるだけ早く解消してゆくこと。それが猫にとって頼れる飼い主になる秘訣ですよ。