愛猫の出産。その命の誕生の瞬間はどんな時でもとても素晴らしいものですよね。一般的に猫は安産。だから自宅で出産することがほとんどです。となれば、飼い主が猫の助産師に!
「初めての経験でどうしていいかわからない!」
いざ出産がきても慌てることなく行動できるように、新米助産師になるあなたへ今から猫の出産に挑む心構えとノウハウをお伝えします。
目次
猫の出産が近づいてきた時に飼い主がすべきこと
猫の妊娠
猫は交尾の刺激で排卵する(交尾排卵)動物。交尾したなら妊娠した可能性が高いです。猫の妊娠期間は通常は63〜65日。交配から3週間たつと、動物病院で妊娠鑑定ができます。ちょうど同じ頃、母猫に妊娠の兆候(行動の変化や体の小さな変化)が出はじめます。
●交配後3週間ほどで現れる妊娠の兆候
- 乳首が膨らんで目立つようになる
- 一時的に(1週間ほど)食欲が落ちる
飼い主として心の準備をしましょう
安産が多い猫でも、出産時にアクシデントが起きることがあります。飼い主がいないと、母猫も子猫も命の危険に。だから猫の出産が最優先!「絶対に出産に立ち会うぞ」という心構えが必要です。
子猫との生活は、今まで通りにはいきません。子猫が部屋でおしっこしたり、部屋を荒らしたり。汚れ物は増えるし、部屋は臭くなるし、掃除ばかりの日々。その覚悟をしてください。
信頼できる動物病院を確保しましょう
妊娠したら必ず動物病院に行き、お腹の中に何匹の子猫がいるか、出産に耐えられる健康状態であるかを確認してもらうこと。そうしないと安全な出産ができません。
妊娠中に通院することは、出産時のアクシデントに迅速に対応してくれる動物病院を確保するためにも重要です。夜間・休診時の緊急連絡先も事前に動物病院に確認しましょう。
出産までに用意する物
猫は妊娠期間が短いため、妊娠判明から出産までに時間がありません。妊娠が分かったら早めに、次の物を揃えましょう。
産箱
汚れて困る場所で出産しないように、「産箱」を用意しましょう。出産予定日の2週間前までに用意すると、産箱で出産してくれる可能性が高くなります。
- 産箱の材料
母猫が手足を伸ばして横になれるサイズのダンボール。
産後は子育ての場になります。長期使用に耐えるものを用意しましょう。 - 産箱の形
出入り口を切り取って作り、屋根として半分だけ蓋をしましょう。 - 産箱の中に敷く物
まずペットシートを敷き、その上に古い毛布などを敷いてください。
※タオルなど、爪が引っかかるものは敷かないこと。 - 産箱を置く場所
室温が25度程度の場所、かつ部屋の隅で静かな所に置いてください。多頭飼いの場合は、他の猫が接触できない場所に置くこと。水やフードは産箱の側に移動しましょう。
多めのペットシート
子猫の排泄物などで産箱のペットシートは頻繁に汚れます。多めに用意してください。
清潔なタオル数枚
子猫が呼吸しない場合に使います。
木綿の糸と清潔なハサミ
子猫のへその緒を切る場合に使います。
出産時に飼い主がすべきこと
出産が近づいているサイン
出産の24時間前になると、特徴的な行動が始まります。具体的には、次のような行動が、出産が近づいているサインです。
- 攻撃的になるまたはとても甘える
- 産箱にこもり、産箱を手で掘る(営巣行動)
- 意味なくウロウロする
- 乳首や陰部をしきりに舐める
- しきりに排便姿勢をする(実際には排便はしない)
猫の出産時の飼い主の心得
出産はそっと見守る。これが飼い主の心得です。声をかけたり、しきりに産箱をのぞいたりすると、難産や育児放棄の原因になります。とはいえ、放置はいけません。異常に気付けるように、耳を澄まして母猫と子猫の様子をそっと観察すること。
異常出産の指標のひとつが時間経過なので、時間を意識することも重要です。夜の出産の場合は、室内の照明は猫の様子が見える程度にとどめてください。助けを求めるように飼い主に甘える猫もいます。優しく声をかけて頭を撫で、安心させてください。
猫の出産の流れ
陣痛が始まると、母猫は口を開けて苦しそうに呼吸し、陰部を舐めたりします。陣痛が始まってから1時間以内に第1仔が誕生します。その後は15〜30分間隔で次々に子猫が生まれます。
子猫が生まれると、母猫は羊膜(子猫を包む透明な膜)とへその緒を噛みちぎり、子猫の鼻を舐めて呼吸を促し、濡れた体を舐めて乾かします。
これは異常出産!
次のいずれかに該当する場合は異常出産。すぐに動物病院に電話して、指示を仰ぎましょう。
- 陣痛開始から1時間以上経つのに第1仔が生まれない
- 1匹、または何匹生まれた後、1時間以上経つのに、次が生まれない
- 膣口から子猫の頭が見えるのに5分以上たっても生まれない
- 悪臭を放つおりものが出る
- 大量に出血する
飼い主の手伝いが必要な場合
生まれて1分経っても母猫が子猫を放置している場合は、飼い主が母猫の代わりをしましょう。まず呼吸を促す。呼吸したら(=鳴き声をあげたら)、次はへその緒の処理です。その具体的な手順を紹介します。
なお、母猫が子猫をケアするのに呼吸しない場合も、同様の手順を踏んでください。どうしても呼吸しない場合は動物病院に電話して指示を仰ぎましょう。
呼吸を促す
- 子猫をタオルで包んで抱き上げる
- タオルで子猫の体をさすって羊膜を剥がす
- タオルで子猫の体をさすって呼吸を促す
※呼吸しない場合
鼻や口に羊水が詰まっている可能性があります。子猫の頭を下に向けて、水をきるように振って、詰まりを除いてください。それでも呼吸しなければ、やや熱めのお湯と水が入ったボウルを用意し、その中に子猫を交互に入れてから、タオルで全身をさすってください。
へその緒を処理する
- 子猫の体から3〜5cmほどの所で、へその緒を木綿糸で強く縛って止血する
- 木綿糸で縛った部分より母体側のへその緒をハサミで切る
※全て完了し、子猫の体がしっかり乾いたら、そっと産箱に戻してください。
無事に出産後の子猫の扱い方
子猫は母猫に任せる
母猫は本能的に育児を開始します。子猫も本能的にミルクを飲み始めます。飼い主の過剰な介入は、育児放棄を招くため、子猫は母猫に任せるのが基本です。飼い主は、子猫がちゃんと成長しているか、病気していないかなど、健康チェックしましょう。
そして、性別が気になりますよね。生まれたての子猫は、見た目で性別を判断するのが少し難しいです。生後2か月もすると簡単に見分けられるので、楽しみに待ちましょう。
健康チェックの仕方
できたら1日1度、少なくとも週に1度は、子猫の体重を測定し、体全体の様子をチェックしましょう。子猫の体重測定にはキッチンスケーラーが便利です。生まれたての子猫の体重の目安は70〜130g(平均100g)。1日に5〜15g程度の体重増加が理想的です。
体重が増えない、もしくは減る場合は、母乳の分泌が足りない、子猫が母乳を上手に飲めないなどが考えられます。子猫が病気の可能性もあるため、動物病院に相談しましょう。
個々の成長を記録し確認する必要があるため、見た目で区別がつかない子猫がいる場合は、背中にマジックなどで印を付けるなどして、区別してください。
成長に伴ったケアをしましょう
健康な子猫の、誕生から離乳までの成長とそのケアなどを紹介します。病気の子猫や、人口哺乳が必要な子猫については、動物病院の指示に従ってケアしてください。
子猫を他の人に譲るのは、子猫の離乳と社会化が完了し、かつ1回目のワクチン接種が終了した後(生後2か月半ごろ以降)が良いでしょう。
生後日数 | 体や行動の変化 | 食事・排泄 | ケア方法、注意事項等 |
誕生〜7日 | ・生後7日ごろから目が開き始める。 ・前肢で体重を支えられるようになる。 |
2時間ごとに母乳を飲み、排泄する(母猫が陰部を舐めて排泄を促す)。 | ・この時期の母乳(初乳)には子猫を感染症から守る抗体が沢山含まれます。初乳を飲ませることが重要です。 ・体温調整がうまくできない時期につき、温度管理を心がけてください(室温は25度以上を保つ)。 |
8〜14日 | ・後肢で体重を支えられるようになる。 ・音がする方に興味を示すようになる。 |
3時間ごとに母乳を飲み、排泄する(母猫が陰部を舐めて排泄を促す)。 | ・生後10日ほどしても目を開かない場合は、濡れた脱脂綿で目頭から目尻に向かってまぶたを拭いてください。脱脂綿にどろっとした液体がついた場合は、目の病気の可能性があります。動物病院に相談しましょう。 |
15〜35日 | ・15日ごろから乳歯が生え始め、35日ごろに生え揃う(計26本)。 ・21日ごろから歩き始める。 ・23日ごろから自力で排泄するようになる。 ・28日ごろから産箱を出て遊ぶようになる。 |
4〜5時間ごとに母乳を飲む。自力で排泄できるようになる。 | ・子猫用のトイレを用意してください。 ・爪切りを開始しましょう。 ・子猫の社会化(性格形成)のために重要な時期です。母猫、他の子猫、人としっかりと接する機会を持つと、社交的で人懐っこい猫になります。 ・産箱を出るようになるので、室内に危険な場所や物がないようにしてください。 |
36〜42日 | ・歯で乳首を噛むようになるため、母猫に叩かれたり、逃げられたりすることが増える。 | 離乳食を開始する(1日2〜3回。離乳が進むのに伴い、母乳を飲む回数は減少)。 | ・離乳食には、子猫用のウェットフードか、お湯でふやかした子猫用のドライフードがおすすめです。 ・離乳食初日は、指に離乳食をつけて、子猫の鼻先に近づけて舐めさせてください。 ・離乳食は徐々にドロドロ状態から形がある状態に変えてゆき、量も増やしていきましょう。 |
43〜60 日 | ・活動量が増し、兄弟のじゃれあいが増える。 | 離乳を完了し普通食に移行する。 | ・ワクチン接種について動物病院に相談しましょう。 ・正確な性別判定ができるようになります。 |
子猫が生まれてから成長毎にどのような流れで餌を与えたら良いのか、またミルクから固形食にいく時期などを、『 これで大丈夫!子猫に餌を与える方法と、成長毎の餌の選び方』の記事で詳しく書いています。
まとめ
なぜあなたの愛猫は出産することになりましたか?望まない妊娠なら、子育て終了後に避妊手術を検討してください。今から交配させようと思っている方に質問です。保健所やボランティア団体などの元には、飼い主募集中の猫が沢山います。
あえて新しい命を望む理由は何ですか?
出産や育児は母猫の大きな負担になるし、命を奪うこともあります。そのリスクを愛猫に負わせる意味、理由を考えてください。体格、血液型、遺伝病などの問題で繁殖に向かない猫がいることを知っていますか?交配前には勉強も必要です。
少し厳しい言い方になってしまいましたが、猫の安易な交配は、動物愛護や母猫の健康の観点から、おすすめできません。色々勉強し、考えた上で、交配させることにしたならば、生まれた子猫が天寿を全うするまで責任を持つ覚悟で、その誕生に向けて準備しましょう。