毎年、冬になるとニュースを賑わすインフルエンザ。「○○さん、インフルエンザだって」なんて会話も日常茶飯事ですよね。人を脅かす怖い存在であるインフルエンザ。ところで、犬もインフルエンザにかかるのでしょうか?
実は長らく、犬はインフルエンザにかからないと考えられていました。ところが、今世紀に入って、犬のインフルエンザが発生しました。
「人のインフルエンザが犬にかかるようになったってこと?」
「犬から人にうつることもあるの?」
そんな疑問が尽きないと思いますので、今から犬のインフルエンザについて、詳しく説明していきます。
更に、インフルエンザと混同されることが多い「犬のパラインフルエンザ」についても、最後に説明していきますので、ふたつの病気の違いについても是非、理解してくださいね。
目次
犬もインフルエンザにかかる
知っておきたいインフルエンザの基礎知識
インフルエンザは、人以外に、鳥や豚、馬で長らく問題となってきました。インフルエンザの原因は、インフルエンザウイルス。インフルエンザウイルスには様々な型があり、本来は動物の種を越えて感染することはありません。
鳥のインフルエンザは鳥だけに、豚のインフルエンザは豚だけに感染するのです。
ところが、インフルエンザウイルスは変異を起こしやすいウイルスで、動物と人が近い距離で生活する中で、インフルエンザウイルスの変異が起こり、動物から人、さらに人から人に感染するインフルエンザウイルスが誕生することがあります。
実は現在、人で流行するインフルエンザウイルスも、他の動物のインフルエンザウイルスが変異して誕生したと考えられています。
近年、鳥インフルエンザが大きな問題となっていますよね。これは、鳥インフルエンザウイルスが鳥の中で流行しており、その結果として、人から人に感染するインフルエンザウイルスが新たに誕生するリスクが高まっているからです。
人のインフルエンザに犬も用心!
人と犬は長い年月、一緒に暮らしていますが、今世紀に入るまで、人のインフルエンザが犬にうつったという報告はありませんでした。
しかし、2009年に新たに誕生した人のインフルエンザウイルス(A型H1N1亜型)について、人から犬に感染した事例が1件、報告されました。
極めてまれなケースとはいえ、人のインフルエンザが犬に感染した事実がある以上は、犬への感染に注意すべきです。
飼い主がインフルエンザにかかったら、極力犬とは距離を保ち、犬と接触するときは、事前に手を洗い、マスクを着用するようにしましょう。
犬のインフルエンザが発生!
「犬のインフルエンザ(犬同士で感染するインフルエンザ)はない」というのが、長らく獣医療の常識でした。
ところが2004年以降、「犬インフルエンザウイルス」による犬のインフルエンザが立て続けに確認されました。現在確認されている犬のインフルエンザウイルスは次の2種類。但し、いずれとも日本での発生はありません。
A型H3N8亜型犬インフルエンザウイルス
犬のインフルエンザは2004年にアメリカで初めて発症が確認されました。以降、アメリカでは多くの州で発生しています。馬インフルエンザウイルスが変異して誕生したと考えられています。
A型H3N2亜型犬インフルエンザウイルス
アジアでイヌインフルエンザが出たと報告されたのは2005年から2006年にかけて、韓国や中国、タイで初めて発症が確認されました。アジアの野鳥が保有する鳥インフルエンザウイルスが変異して誕生したと考えられています。
2015年にアジアから持ち込まれた犬が原因でアメリカに感染が広がり、2017年に大流行して問題となっています。
犬のインフルエンザの感染経路
インフルエンザの症状が出てから4~7日間、感染した犬の唾液や鼻水に犬インフルエンザウイルスが排泄されます。これが、次のいずれかの方法で健康な犬の体の中に入ることで感染が広がります。
接触感染
- 感染した犬と直接触れ合うことで、鼻水や唾液に接触して感染する。
- 感染した犬と触れ合った飼い主や、感染した犬が使った食器などについた鼻水や唾液に接触して感染する。
飛沫感染
感染した犬のくしゃみや咳によって、空気中に飛び散った鼻水や唾液が、口や鼻に付くことで感染する。通常、飛び散る範囲は1〜2m程度。
空気感染
感染した犬のくしゃみや咳によって、空気中に飛び散った鼻水や唾液の水分が蒸発して、微粒子のエアロゾルとなり、空気中を長時間漂う。これを口や鼻から吸い込むことで感染する。
犬のインフルエンザの症状
感染した犬の80%近くが症状を出します。症状が出るのは、感染して2〜5日後から。
その症状によって、軽症型と重症型に分類されます。軽症型の方が多いですが、高齢犬や呼吸器に持病を抱えた犬は、重症型を発症しやすいです。
軽症型
持続性の軽度の湿性の咳(痰を伴う咳)が10〜30日続きます。食欲不振や元気消失、鼻水、発熱なども併発。細菌の二次感染によって、緑色の鼻水が出る場合も。
「ケンネルコフ」に似た乾性の咳(痰を伴わない咳)が出ることがあるため「ケンネルコフ」に間違えられることも多いです。
重症型
高熱(40~41℃)、肺炎による呼吸促迫や呼吸困難を発症し、時として命を落とします。多くで細菌の二次感染が認められます。発症した犬のうち、重症型になって死亡するのは5~8%。
犬のインフルエンザの治療
根本的な治療法(ウイルスを撃退する方法)は確立されていないため、対症療法(症状を緩和するための治療)と栄養管理により自然治癒を待ちます。
緑色の鼻水が出ている場合や重症型の場合は、細菌の二次感染を起こしているため、抗生剤を投与。他の犬に感染を広げないために、感染した犬は隔離が必要です。
犬のインフルエンザの予防
A型H3N8亜型およびA型H3N2亜型のワクチンは共にアメリカで製造販売されています。ワクチンの接種が推奨されているのは、感染が懸念される地域で、犬が多く集まる施設で過ごす機会がある犬。
7週齢以上の犬に接種可能で、2〜4週の間に2回の接種が必要です。ワクチンの効果は長続きしないため、年に1回の接種が必要です。今のところ、日本では犬のインフルエンザの発生がないため、ワクチンは販売されていませんし、接種の必要もありません。
犬が体調を悪くしていたら、インフルエンザではなく風邪の場合があります。犬も当然風邪をひくことがあるので、飼い主さんは注意しておきましょう。
犬の風邪について詳しくは、『犬も風邪をひく!犬の風邪の原因や対処法』の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてください。
犬のインフルエンザは人には感染しない!
犬のインフルエンザは今のところ人には感染しない!
犬のインフルエンザウイルスは、人には感染しません。ただし今のところ。というのも、犬と人は極めて近くで生活しているため、いつウイルスが変異して、人に感染するようなインフルエンザウイルスが誕生してもおかしくないのです。
インフルエンザに感染した犬は、人に感染するように変異したインフルエンザウイルスを誕生させる恐れがある。
ついては、ワクチンで犬インフルエンザを予防することは、犬の健康を守るだけでなく、人の健康を守るという意味でも重要と考えられています。なお、犬のインフルエンザが猫に感染する可能性が示唆されていますが、まだ確定的ではありません。
日本に犬のインフルエンザが上陸する可能性に備える
人も動物も、海を越えて自由に行き来する時代ですから、いつ犬のインフルエンザが日本に上陸してもおかしくありません。
知らずのうちに上陸した犬のインフルエンザに、愛犬が感染する可能性も。さらには愛犬の体内で、人にうつるようにウイルスが変異することだって考えられます。
日頃から、犬と接触の際は衛生を意識して、もしもに備えることが必要です。犬を触った後は消毒用石鹸でしっかり手を洗ったり、アルコール消毒薬を使ったりしましょう。インフルエンザに限らず、様々な病気の感染予防にもなります。
パラインフルエンザ感染症にかかった時の対処法
犬のインフルエンザと犬のパラインフルエンザは全く異なる病気
犬のパラインフルエンザをご存知ですか?「パラ」とは「似ている」という意味。つまりパラインフルエンザとは「インフルエンザに似ている」という意味です。
その名の通り、ふたつのウイルス感染症はよく似た症状を示しますが、全く異なる病気です。
名前が似ているためか、インターネットにおいて、犬のインフルエンザとパラインフルエンザの情報の混同がいくつも見受けられますので、ここで、パラインフルエンザについて簡単に紹介しますね。
犬パラインフルエンザウイルスはケンネルコフを起こす!
犬パラインフルエンザは、「ケンネルコフ」または「犬の風邪」と総称される感染症のひとつ。ケンネルコフは、日本でごく一般的に見られる病気です。
ケンネルコフの病原体には他に、イヌアデノウイルス2型、イヌヘルペスウイルス、マイコプラズマ、気管支敗血症菌などがあります。
実はパラインフルエンザは単独では症状を示すことはほとんどなく、他の病原体の混合感染によって呼吸器症状を起こし、時として命を奪います。
ケンネルコフは、健康な成犬であれば、2週間ほどで自然治癒します。一方で、幼若犬や老犬では重症化して時として命を落とすことも。治療法はインフルエンザとほぼ同様です。人に感染することはありません。
犬のパラインフルエンザと犬のインフルエンザの類似点と相違点
犬のパラインフルエンザ(=ケンネルコフ)と犬のインフルエンザについて、類似点と相違点をまとめますね。
類似点
- 両疾患は共に、咳を主症状とする呼吸器感染症
- 根本治療法は無く、対症療法にて自然治癒を待つ
- 人に感染しない
相違点
- 犬のインフルエンザは日本で発生がないが、犬のパラインフルエンザは、日本で一般的な病気
- 犬のインフルエンザは空気感染するが、犬のパラインフルエンザは空気感染しない
- 日本では、犬のインフルエンザはワクチン接種の必要はないが、犬のパラインフルエンザはワクチン接種が推奨されている
まとめ
人のインフルエンザが犬にうつる可能性がある事に、驚いた方が多いのではないでしょうか。
とても低い可能性なので、いたずらに恐れる必要はありませんが、万が一に備えるつもりで、飼い主がインフルエンザにかかったら、他の家族に対するのと同様の気遣いを、愛犬にもしていただければと思います。
インフルエンザに限らず、新しい病気が見つかったり誕生したりと、犬の病気の事情も刻々と変化しています。日本のみならず、世界中の最新の情報を得ることが、病気に備えるためにとても大切です。