性成熟したメス犬は人間と異なり、”発情期”という限定的なタイミングだけにオスを受け入れて交尾行動を行い、同時に繁殖(妊娠)することができます。
逆に発情期ではない時にはオス犬を受け入れず、妊娠そのものもできないということになります。性成熟したオス犬は人間と同じように、繁殖行動はいつでも行うことができます。
もしも、去勢していない成犬が放し飼いにされていたら、遠くにいる発情期のメスの匂いをキャッチして猛ダッシュでメスの所まで走って行くでしょう。
犬が性成熟に達したら、こういった事故がないようにしなければなりませんが、オスもメスも果たしていつ頃に性成熟するのでしょうか?メスの発情期は生涯に渡りやって来ますが、どれぐらいの間隔で発情期がやって来るのでしょうか?
ここではそういった犬の発情期に関する基礎的なお話をしてみたいと思います。
目次
犬の発情期
犬の寿命は犬のサイズによって多少の差がありますが、性成熟にも犬のサイズにより微妙な差があります。
- 中・大型犬では生後約8ヶ月以降
- 小型犬は生後6ヶ月以降
平均して7ヶ月頃には多くのメスは初めての発情期を迎えることになりますが、もちろん個体差があります。
早いメスもいれば遅いメスもいて、全体で 6ヶ月〜 24ヶ月の幅があります。オスは性成熟したこの時期から発情中のメスを求め始めます。
メスの発情期の間隔
一度発情期を迎えると、その後はどのような間隔になるのか気になりますよね。これも個体差があり、平均的には7ヶ月と言われていますが、必ずそうなるわけではありません。
4ヶ月から12ヶ月の幅があり、年に2〜3回来る場合もあれば、1回の時もあります。高齢になると更に不規則になる可能性が出て来ますが、妊娠することはできます。
メスの発情サイクルの構成
メスの発情サイクルは、発情前期、発情期、発情休止期、無発情期、という4つの期間で構成されています。
発情前期
オスには興味がありませんが、特徴的な陰部の腫大(腫れる)や発情出血があります。期間の長さは 3〜17日、平均9日です。この時期は、飼い主さんも、出血に気づくことで、発情前期が始まったことがわかります。
発情期
オスを受け入れ、この時期に入ってから数日後に排卵が起こり、妊娠可能となります。期間の長さは 3〜21日、平均9日です。
- 発情休止期
発情休止期はオスを受け入れません。この時期には、メス特有の偽妊娠(乳腺が張ったりなど)という状態も起こることがあります。これはホルモンの影響で、正常な場合でも起こる現象です。期間の長さは約2ヶ月です。 - 無発情期
無発情期も同じくオスを受け入れません。卵巣は機能していない時期です。期間の長さは平均4.5ヶ月です。
犬の発情期の行動
発情期の行動はオスとメスで当然異なりますが、特にオスは発情期という限定した期間がないので、普段から見かける可能性がある行動と言えるでしょう。以下にオスとメスを分けて紹介します。
オスの発情行動
先に述べたように、オスは生後半年以上して性成熟を迎えると、オスらしい体つきになり、どこか遠くにいる発情中のメスでも、その匂いを察知して気が気では無くなります。そんな時に飼い主さんが気づく主な行動は次の通りです。
- 非常にそわそわして落ち着きがなくなる。
- 遠吠えをする。
- 注意散漫になり、何か命令をしても聞かないことがある。
- 外の塀を乗り越えて脱走する、など、メスを探しに行こうとする。
- マーキング行動が激しくなる。
- 他の犬や人に接触した場合に、攻撃的になる。
- 特に他の未去勢オスには危険を伴うほどの攻撃性が出ることがある。
- メス犬が見つからない場合には、ぬいぐるみなどで交尾行動の真似をする。
おそらく、飼い主さんが一番困るのは、何か、あるいは誰かに構わず飛びかかって交尾行動をしようとすることだと思いますが、去勢されていなければ仕方ないことでもあり、その一方で、実は犬は非常にストレスを感じています。
犬がストレスを感じる事を、『気をつけて!犬にとってのストレスになる要因とやってあげたいストレス解消法!』の記事で更に詳しく紹介しています。
メスの発情行動
メスは時期が限定していますが、発情前期から発情期のオスを受け入れる時期における主な行動(兆候)は以下のようになります。
- 発情出血が始まる少し前から陰部が腫れる。
- 発情出血がある。
- 陰部を清潔にする為、よく舐める。
- 自分から他の犬や物に乗ろうとしてみたり、オスを受け入れるような態勢になることがある。
- 普段よりも甘えるようになる。
- 神経質になる。
- 遠吠えすることがある。
- 尿の中にフェロモンが含まれており、オスに発情を知らせる為、尿の回数が増える。
- 発情期終わりになると、巣作り行動(床掘りなど)が現れ、近寄ると威嚇することがある。
出血の量は個体差があり、飼い主さんが実は気づかないぐらい少量であることもあります。
尿が増えて陰部を舐めるといった行為がある際には、実は膀胱炎である可能性もあるので、発情であるかどうかは確認をしておかなければなりません。
これらの兆候がある発情期のメスは、非常にストレスを感じており、敏感になっています。散歩に出かける際には、犬同士の喧嘩などの事故にも繋がるので、未去勢のオスがいる場所には絶対に連れて行かないように気をつける必要があります。
飼い主さんは必ず、発情が来た日にちは覚えておいて下さい。特に発情後に発症しやすい病気(例えば子宮蓄膿症)の診断の際に重要な情報となります。
犬の発情を抑える方法
犬の発情を抑える方法で一番有効な方法は、去勢手術と避妊手術です。一時的に発情期の犬を隔離したり、ホルモン剤による発情を抑える方法などは、目的がどこにあるかという点から考え直さなければなりません。
単に発情を抑える目的が、発情行動を抑えたいからである場合には、やはり、手術が一番確実です。
将来的に子孫を残すことを考慮して、一時的に抑えることを希望される場合には、まずは新たに繁殖で増やすことを考える前に、シェルターなどを訪問して希望されている犬種の若齢犬を見つけ出すことを考えみましょう。
見つけた後は、是非、去勢や避妊手術を検討して下さい。以下に、去勢手術と避妊手術について説明します。
去勢手術
生後半年頃までに精巣を摘出することで、オスとしての能力は無くなり、発情に関連する行動は殆どの場合抑えられます。
中には、手術をする時期が遅い場合は、すでに行動が癖になってしまっていることもあり、ぬいぐるみなどに交尾行動の真似をするなどが収まらないこともあります。
去勢手術の費用については、『犬の去勢手術の費用はどのくらい必要?知っておきたい補助金制度も解説!』の記事で詳しく解説していますので、手術を考えられている方はぜひ参考にしてみてください。
避妊手術
生後半年頃までに卵巣と子宮を摘出します。卵巣も子宮も無くなりますから、発情そのものも無くなり、妊娠する可能性はゼロとなります。
飼い主なら知っておきたい犬の発情について
オス、メス、両方にとっての発情に関わるメリットとデメリットを考えてみたいと思います。
発情のメリット
- 子孫を残すことができる。
- 避妊・去勢手術の侵襲※を避けることができる。
※侵襲とは医学用語であるため、一般の感覚と異なる[1]。侵襲とは、「病気」「怪我」だけでなく「手術」「医療処置」のような、「生体を傷つけること」すべてを指す。
出典:Wikipedia
発情のデメリット
- 望まない妊娠もあり得る。
- 一生発情が続くので、それに伴う行動は、その都度対処が必要になる。
- 発情ストレスが一生続く。
- 避妊・去勢手術をしていないことで、発症率の高い生殖器に関わる病気になるリスクがある。
- 遺伝病を持っていた場合には、いずれにしても繁殖はできない為、発情の必要性がない。
避妊・去勢のメリットとデメリット
発情のことを十分に理解した上で、避妊・去勢手術を検討される場合には、手術のメリットとデメリットも当然並行して考える必要があります。
どちらの手術に関しても言えることは、健康な若い何も病気になっていない時なら、手術のリスクはずっと低く、コストも抑えられます。
また、計画外で偶然できてしまった子犬の里親などの問題がなくなることも注目すべきポイントです。以下には、メスとオスの場合に分けて手術のメリットとデメリットを挙げて見ます。
避妊手術のメリット
- 周囲にも迷惑をかける可能性のある発情行動が一生抑えられる。
- 近所に未去勢のオスがいても、事故で妊娠する可能性がない。
- 遺伝病が抑えられる。
- 発症率が高い子宮蓄膿症、乳腺腫瘍を代表とする生殖器に関わる病気が抑えられる。
乳腺腫瘍
高齢犬に非常に多い乳腺にできる腫瘍で、良性の可能性は50%以上と言われていますが、複数できたり、大きくなって破裂したりすることがあります。
雌性ホルモンが関係しており、初めての発情前に避妊手術をすることで発症率はかなり低くなります。
子宮蓄膿症
子宮内に細菌感染が起こり、膿が溜まる病気で、高齢犬に非常に多いですが若齢犬でも発症します。
発情に伴った黄体ホルモンの分泌が関係しており、この病気になると、内科治療は再発の懸念がある為、子宮と卵巣を摘出せざるを得ません。
子宮・卵巣の腫瘍
どちらも犬では発症率は低く、良性が多いですが、腫瘍が大きくなることで物理的に他の器官を圧迫したり、食欲不振になったり、子宮の腫瘍の場合には子宮蓄膿症を同時に発症することもあります。
避妊手術のデメリット
- 子孫を残せない。
- お腹を開く手術の為、傷口が大きく残る。
- 肥満傾向になる。
去勢手術のメリット
- オス特有の発情行動が一生抑えられる。
- 発情がないことで、訓練などで集中力がアップする。
- 肛門周囲腺腫や前立腺肥大を代表とする、雄性ホルモンが関連する病気の発症率が低くなる。
肛門周囲腺腫
お尻の周りにできる腫瘍で多くは良性ですが、雄性ホルモンが関係しており、大きくなると排便困難になったり、化膿、出血などをしてくることがあります。
前立腺肥大
雄性ホルモンが関係しており、高齢になると肥大して来ます。排便や排尿が困難になることがあります。
会陰ヘルニア
中年期の未去勢のオスに多く、雄性ホルモンが関係していると考えられています。
お尻の周りに腫瘍のようなヘルニアが発生しますが、これは、ヘルニアが発生している部分の筋肉が弱く隙間ができることによります。腸が入り込むことで、排便困難になることが多いです。
精巣腫瘍
中年期以降に多く、精巣そのものが腫瘍となったり、精巣の表面や中に腫瘍ができることもあります。特に、停留精巣(お腹に精巣が残っている)の場合には、精巣腫瘍になりやすい為、早い時期に去勢することが必須となります。
(以上、参考文献:SMALL ANIMAL INTERNAL MEDECINE, 4th edition)
去勢手術のデメリット
- 子孫が残せない。
- 肥満傾向になる。
避妊手術・去勢手術のデメリットは本当にデメリット?
動物病院の獣医師の殆どが避妊・去勢のメリットの説明をして、あまりデメリットを語らないことが多いです。
飼い主さんの立場からのデメリットは、おそらく、①手術はかわいそう、②手術の後遺症があると聞いた、③太ると聞いた、などのポイントだと思います。
このデメリットは、本当にデメリットかを考えてみましょう。
手術はかわいそう
手術の痛みは数日ですが、一生、お相手探しの為に発情ストレスを感じながら生きていくことは、犬にとってもすごくつらいことと言えます。
逆に、ストレスから解放されて病気予防ができ、長生きも可能になると考えれば、十分なメリットとなります。
手術の後遺症
特にメスの避妊手術の後に、排尿の問題が稀に出ることがあります。
それは丁度、ワクチンを接種して具合が悪くなってしまったり、薬を飲んだら体に合わなかった、という現象と同じで絶対に問題が起こらないという保証はありません。
残念ながら、手術をしてみないと結果はわからないということも考慮して、手術を検討するしかありません。
太る
手術のデメリットに肥満傾向になると示しましたが、これは飼い主さんサイドでも気になることだと思います。
この問題の解決策は、食餌の与え方にあります。手術をしたことで、体の内部に変化が出てくるのは当然です。発情に対するエネルギーは使わなくなり、塀を越えて脱走する、などの大胆な動きもなくなり、少し鈍くなります。
更に、生後半年経過した時期は、生後間もない時期と比較して体の成長速度は少し落ち着いて来ます。その体の変化を気にせずに同じ量のエネルギー量の食餌を与えると、カロリーオーバーになり、結果、太ります。
必要なカロリー量を守って、必要な運動を行えば、決して太ることはありません。
まとめ
犬の発情と避妊・去勢手術に関して説明して来ましたが、発情は動物であれば仕方ない問題です。とは言っても、犬は人間の伴侶であり、人間社会で生活をしています。
発情そのものは自然現象ですが、自然の森での生活とは異なります。発情行動による近所迷惑などにも、注意を払わなければなりません。
最終的には、発情は高齢でも起こる現象である、高齢になると生殖器に関わる病気の発症率が高くなる、その時の避妊・去勢手術は、若齢犬に比べるとはるかに複雑で、高齢という体に対する負担と費用の負担が大きくなる、という事実を理解した上で、避妊・去勢手術を検討してみて下さい。