「うちの猫が口からウンチを出しました!!」
冗談のような話ですが、実際にそう言って病院に駆け込む飼い主さんがいます。もちろん、口からウンチが出る事はありません。飼い主がウンチと誤解した物の正体。
それは「毛玉(ヘアーボール)」。日々のグルーミング(毛づくろい)で飲み込んだ毛が、胃の中で塊になったもので、色も形もウンチに似ています。
毛玉は、時として猫の命を奪うこわいもの。でも飼い主のちょっとした心がけで、その危険性は格段に低くなります。今から「毛玉」について学び、猫を命の危険から守りましょう。
目次
猫が毛玉を吐く理由
なぜ猫は毛を飲み込むのか
猫の舌はざらざらですよね。よく見るとトゲのような突起が喉に向かってたくさん生えています。猫はグルーミングの際、この舌の突起でヘアーブラシのように毛を絡めとり、その毛を飲み込んでしまいます。
猫は毎日どれくらいグルーミングしていると思いますか?海外の研究によると、猫がグルーミングに費やす時間は、起きている時間(1日の半分)の8%。つまり1日およそ1時間もグルーミングするのです。
全身が毛で覆われた猫の抜け毛は相当なもの。猫が日々のグルーミングで飲み込む毛がかなりの量であることは容易に想像できます。グルーミングは毛や皮膚を清潔にするだけでなく、病気予防や体温調節、精神安定など、様々な目的で行われる大切な行為。
止める訳にはいきません。猫にとって毛を飲み込んでしまうのは、仕方ないのです。
飲み込んだ毛がなぜ毛玉に?
動物の毛の主成分は「硬ケラチン(オイケラチン)」というタンパク質。このタンパク質は水に溶けず、また胃や腸から分泌される消化液では分解されません。動物は毛を分解して消化する事ができません。だから飲み込んだ毛は、体の中で毛の状態のままでいます。
とても細く柔らかい猫の毛は、絡まりあいやすく、毛玉になりやすい性質があります。グルーミングで毛を飲み込む。その毛が胃の中で分解されずに「毛」のままでいる。
それが絡まりあう。こうして毛玉ができます。できた毛玉にさらに次々に毛が絡みつき、雪だるまのように大きくなってゆきます。
毛玉を吐く意味
毛玉は体の中にあると、時として「毛球症」という深刻な事態をもたらします。毛玉を吐くことはその防止のために重要です。毛玉を吐くこと自体は病気ではなく、生体防御のための生理現象。毛玉を吐いただけで他に様子がおかしくないなら、慌てて病院に行く必要はありません。
むしろ「吐き出してくれて良かった」と考えても良いほど。ただし、毛玉を吐いたということは「胃の中に毛玉ができていた」つまり「毛玉によって命を落とす危険性があった」ということ。その事実はきちんと自覚すべきです。
毛玉を吐く適切な頻度はわからない
胃の中に長期間とどまっているものがあると、それを吐き出そうとするのが体の正常な反応。毛玉を吐くのもこの反応によるものです。毛玉はどれくらいの期間、胃の中にとどまると吐き出されるのでしょうか?残念ながら答えはありません。
体質、体調、年齢、毛玉のサイズ、その他さまざまな要因によって吐き出されるタイミングが決まるので、明確な基準がつくれないのです。
必ず毛玉ができるわけではない
飲み込んだ毛は全て胃の中で毛玉になる訳ではありません。胃から小腸、大腸と運ばれて、便に混じって排泄されることもあります。猫の便をよく見ると、混じった毛を確認できることがあります。
本来は便に混じって自然に排泄されるのが理想です。毛がスムーズに便から排泄されると、胃に毛玉ができません。
つまり長期間毛玉を吐かなくても問題ない場合もあります。飲み込んだ毛が胃にとどまって毛玉になるのか、便に混じって排泄されるのかを決める決定的な要因はありません。ただし、飲み込んだ毛が長いほど、またその量が多いほど、胃にとどまる可能性が高くなります。
猫の毛玉対策について、『愛猫の毛玉対策はできていますか?正しい対策を知っておこう!』の記事で詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
毛玉を吐けないと猫の体調に異変が起きる!
毛玉の恐怖「毛球症」
毛玉が胃から吐き出せないほど大きくなったり、食べ物の通過を邪魔するようになると、悪心や食欲不振などの症状が出て、時として命の危機に陥ることがあります。
毛玉が原因で何らかの症状が出た状態を「毛球症(もうきゅうしょう)」と呼びます。「毛球症」というのは総称です。具体的には次のような病気になります。
胃内異物・胃通過障害
毛玉が胃の中で、物理的に吐き出せないほど大きくなると、慢性的な吐き気や食欲不振などの症状がでます。毛玉が「胃内異物」という病的な状態になるのです。
毛玉が、食べ物の通過を邪魔すると、「胃通過障害」になります。嘔吐、便秘、食欲廃絶、元気消失などの症状が出ます。時として命に関わります。
腸管内異物・腸通過障害・腸閉塞
胃の中でできた毛玉が、胃から腸に運ばれることがあります。それが腸のどこかで詰まった場合、その詰まった毛玉は「腸管内異物」となります。
「腸管内異物」が食べ物の通過を邪魔する状態が「腸通過障害」であり、完全に通過が妨げられた状態は「腸閉塞」と呼ばれます。嘔吐、便秘、食欲廃絶、元気消失などの症状が出ます。腸管が壊死する場合もあり、時として命に関わります。
毛球症の治療法
毛玉の大きさがそれほど大きくなく、症状も軽い場合には、毛玉の排泄を促すサプリメントなどを使い、自然に排泄されるのを待ちます。毛玉の自然な排泄が困難な場合や症状が深刻な場合は、内視鏡もしくは切開手術によって直接取り出します。
また全身状態が悪化している場合には、その治療も併せて行います。かなり大掛かりな治療になるので、その分治療費用は高額になります。
猫の毛が抜ける時期は特に毛玉対策が必要です。詳しくは、『猫の抜け毛が多い時期はいつ?適切な毛玉対策』の方法の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
毛玉問題を解決する方法
毛玉ができにくい生活を心がける
絶対に毛球症にならない方法はありません。でも今から紹介する方法を実践すれば、毛球症になる可能性は極めて低くなりますよ。
毛球症にならないために大切なことは、毛玉の形成防止(飲み込む毛の量を減らす)と毛の排泄促進(飲み込んだ毛を早く体の外に出す)。それは日頃のちょっとした心がけでできることなので、その具体的な方法を紹介します。
ブラッシングする
ブラッシングすれば、グルーミングで飲み込む毛の量が格段に減ります。理想的な頻度は、短毛種は1日1回、長毛種は1日2回(朝晩1回)です。特に換毛期(11月頃と3月頃)はまめなブラッシングが必要です。
トリミングする
特に長毛種の場合、トリミングで毛を短くすると毛玉ができるリスクが減ります。ただし、猫によっては毛を短くされることにストレスを感じることがあります。
ストレスを減らす
猫はストレスが溜まると、グルーミング頻度が増します。ストレスの原因を取り除けば、過剰なグルーミングで毛をたくさん飲み込んでしまうことを防げます。
専用のフードやサプリメントを使用する
飲み込んだ毛が便と一緒に排泄されるのを助ける専用のフードやサプリメントがあります。獣医師と相談の上、このような商品を使うのも有効です。
猫用の草を使用する
一般的に猫草と言われるものが、ペットショップや園芸店に猫用の草が売っています。草を食べると、胃が刺激されて嘔吐し、毛玉の吐き出しが促されます。全ての猫が猫用の草を好むわけではありませんが、一度試してみるのが良いでしょう。
猫をよく観察する
「これくらいの頻度で毛玉を吐けば絶対に大丈夫」という目安はありません。でもいつも猫を観察し、「うちの子はいつもこれくらいの頻度で吐くのに、最近吐かない」と気づく事は、毛球症の早期発見や発症防止に有効です。
猫の毛玉対策にブラッシングはかなり有効です。正しいブラッシング方法を、『毛玉対策は必須!猫のブラッシングを正しくする方法!』の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
猫の胃や腸の大きさをご存知ですか?成猫で、胃の容積はおよそ牛乳瓶1本分。腸の直径は1cm(手の小指ほどの太さ)です。とても小さいですよね。だから、ささいな毛玉で命を落とすことがあるのです。
今まで毛玉対策をしてこなかった方。「だからこれからも大丈夫」ではなく、「これまでが運が良かったんだ」と考えてください。そして今から早速、毛玉対策を始めましょう!