ある調査によると、0歳の猫の死因のなんと40.9%が感染症だそうです。
全年齢で見ても、死因の10.6%が感染症。それほどに猫の世界には感染症が蔓延しています。では、猫のワクチン事情はどうなっているのでしょうか?
猫のワクチンは、いくつかの種類があります。また適切なタイミングで接種する必要があります。どのようなワクチンをいつ接種すればいいのか。正しい知識を持って、愛猫を感染症の危険から守りましょう。
目次
猫の予防接種は必要!
猫の予防接種の基礎知識!
予防接種とは、感染症の予防を目的に、ワクチンという薬剤を接種すること。ワクチンには、弱めた病原体もしくは死んだ病原体が含まれています。ワクチンが体に入ると、その病原体を免疫システムが攻撃。
免疫システムは、この攻撃を通して病原体の情報を記憶します。そうすると、実際に病原体が体内に侵入してきたときに、迅速に攻撃できるようになるため、感染を予防したり、その症状を弱めたりすることができるのです。
猫の予防接種の重要性
猫に蔓延している感染症は全て、命を脅かす危険があります。一度感染すると生涯、体の中に病原体が居続け、根本的治療ができないケースが多いのも厄介なところ。だから、予防接種で感染を防ぐことがとても重要です。
具体的に猫に蔓延している感染症とそのワククチンの有無を表にまとめましたので参考にしてくださいね。※スマートフォンの場合、横にスクロールできます。
病名 | 病原体 | ワクチンの有無 |
---|---|---|
猫ウイルス性鼻気管炎 | 猫ヘルペスウイルスⅠ型(FHV-1) | ○ |
猫カリシウイルス感染症 | 猫カリシウイルス(FCV) | ○ |
猫汎白血球減少症 (猫パルボウイルス感染症) |
猫汎白血球減少症ウイルス(FPV) | ○ |
猫白血病ウイルス感染症 | 猫白血病ウイルス(FeLV) | ○ |
クラミジア感染症 | ネコクラミジア (クラミジア・フェリス) |
○ |
猫免疫不全ウイルス感染症 | 猫免疫不全ウイルス(FIV) | ○ |
猫伝染性腹膜 | 猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV) ※コロナウイルスの一種 |
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室内飼いだから予防接種しない!?
「うちの子は完全な室内飼いだから、感染症にかかる可能性はないでしょ!」
そう思う方もいるでしょう。確かに外に出る猫と比べると、室内飼いの猫は感染リスクが低いです。でもそのリスクはゼロではありません。
実際に、外と完全に隔離された環境である高層マンションで飼われていた猫が感染した事例もあるそうです。具体的に、室内飼いの猫の感染リスクには次のようなものがあります。
室内飼いの猫の感染リスク
- 飼い主を介して外からウイルスが持ち込まれて感染する
※他の猫を触ったことで病原体が手や服に付くだけでなく、土壌に潜んでいた病原体が靴に付くこともあります。 - 猫が脱走してしまい感染する
- 動物病院やペットホテルで感染する
例えば、急な事情で猫を預けなければならなくなった時。ペットホテルには様々な猫がいるため、おのずと感染のリスクにさらされます。猫の体調不良で動物病院に行った時も同様です。
予防接種は効果が出るまで2週間ほどかかります。いざという時に慌てて接種しても間に合わないのです。様々なリスクにあらかじめ対処するために、室内飼いの猫にも予防接種が必要です。
猫の予防接種のリスク
猫の予防接種のリスクは副反応の発生です。その副反応について具体的に紹介しますね。
アナフィラキシー
ワクチンに対する重度のアレルギー反応。接種後数分〜1時間(大抵は30分以内)に発症します。顔面腫脹(ムーンフェイス)、蕁麻疹、呼吸困難、嘔吐、痙攣、血圧低下などを発症し、ショック状態に陥って命を落とすこともあります。
発熱、元気消失、食欲消失など
ワクチン自体に対する体の反応、もしくは予防接種による精神的なストレスによるものと考えられます。
接種部位の炎症性肉芽腫
ワクチンに対する炎症反応で、接種部位に「肉芽腫」というしこりができます。1か月半程で自然に消失します。
接種部位の肉腫(悪性腫瘍/癌)
稀ではありますが、ワクチンの接種部位に肉腫という悪性腫瘍(癌)ができることがあります。理由は分かっていません。この肉腫は、転移や再発のリスクが高く治療が困難です。特に猫白血病ウイルスのワクチンで、その危険性が問題視されています。
予防接種で命を落とすこともある。その事実を知ると、予防接種が怖くなりますよね。でも、予防接種で命を落とす確率よりも、感染症で命を落とす確率の方がはるかに高いです。
だから、多くの獣医師が予防接種を推奨しています。
また、定期的な血液検査も重要です。詳しくは、『猫の血液検査でかかる費用を紹介!血液検査でわかる内容・項目とは?』の記事で解説しています。
猫の予防接種のスケジュール
猫の予防接種は生涯にわたって必要
猫のワクチンは、複数の感染症の病原体を混ぜた「混合ワクチン」がメイン。ひとつのワクチンで複数の感染症が予防できるのは、手っ取り早くて便利です。
ただ、1回の接種で生涯にわたる効果が得られるワクチンはありませんので、生涯にわたり、接種を繰り返す必要があります。
接種のタイミングを間違えると、ワクチンの効果が切れてしまって、感染のリスクにさらされますので、正しいスケジュールで予防接種することが重要です。
子猫の予防接種のスケジュール
子猫は、初乳から得た抗体の影響などによって、ワクチンの効果が出ない場合があるため、効果を確実にするために、複数回接種します。
現在、日本では次のような予防接種スケジュールが一般的です。
一般的な予防接種のスケジュール
- 生後2か月で初回接種
- 生後3か月で追加接種
- その後は、1〜3年ごとに追加接種
本当は、より頻回に予防接種することが理想とされていますが、費用や手間の問題があり、なかなか理想通りの接種は行われていません。
なお、予防接種歴のわからない生後16週を超えた子猫は、初回の1回の予防接種で十分に免疫ができるため、その後は1〜3年ごとの接種で良いとされています。
月齢不詳な子猫や、体調不良が続いている子猫などは、スケジュール通りに予防接種できないことがあります。
そのような場合は、個々の状況に応じたベストなタイミングで予防接種することが大切ですので、獣医師に予防接種のスケジュールをアレンジしてもらいましょう。
成猫の予防接種のスケジュール
子猫の時から予防接種している場合は、成猫になれば、1〜3年ごとに追加接種すれば良いのですが、1歳以上の成猫を家族に迎え、過去の予防接種歴が分からない場合は、次のスケジュールが推奨されます。
接種歴不明な成猫の予防接種のスケジュール
- 極力速やかに初回接種
- 初回接種の1か月後に追加接種(行なわない場合もある)
- その後は1〜3年ごとに追加接種
成猫に対する追加接種については1年ごとに行うのが一般的ですが、ワクチンの効果は1年以上続くため、副反応防止の観点から、接種間隔を2〜3年とする病院も増えてきました。
年に1度、抗体検査(血液検査)を行い、ワクチンの効果が切れていることを確認した場合にだけ、追加接種する方法もあります。
予防接種のワクチンの種類とそれぞれの費用
ワクチンの種類
参考までに、2017年6月現在、製造販売されている猫用のワクチンについてまとめました。※スマートフォンの場合、横にスクロールできます。
●ワクチン種別の予防できる感染症一覧
単種 | 単種 | 3種 | 5種 | 5種 | 7種 | |
---|---|---|---|---|---|---|
猫ウイルス性鼻気管炎 | – | – | ○ | ○ | ○ | ○ |
猫カリシウイルス感染症 | – | – | ○ | ○ (1種類) |
○ (2種類) |
○ (3種類) |
猫汎白血球減少症 | – | – | ○ | ○ | ○ | ○ |
クラミジア感染症 | – | – | – | ○ | ○ | ○ |
猫白血病ウイルス感染症 | – | ○ | – | ○ | ○ | ○ |
猫免疫不全ウイルス感染症 | ○ | – | – | – | – | – |
※5〜7種混合ワクチンについては、予防できる感染症の種類は同じですが、ワクチンに含まれている猫カリシウイルスの型(種類)の数が異なります。
人のインフルエンザのように、猫カリシウイルスも様々な型が蔓延しているため、それに応じたものです。
ただし、ワクチンで得た免疫は、違う型のウイルスに対してもある程度の効力があるため、ワクチンに含まれていない型に感染しても、致死的な病状に陥る可能性は少なくなります。
●ワクチン種別の製品名一覧※スマートフォンの場合、横にスクロールできます。
ワクチン種 | 製品名 |
---|---|
単種 (猫免疫不全ウイルス感染症) |
フェロバックスFIV |
単種 (猫白血病ウイルス感染症) |
リュウコゲン |
3種 | 猫用ビルバゲンCRP、フェロバックス3、フェロセルCVR、 フェロガードプラス3、ピュアバックスRCP 、ノビバックTRICAT、“京都微研”フィライン-CPR-NA |
5種 | フェロバックス5 、ピュアバックスRCPCh-FeLV |
6種 | “京都微研”フィライン-6 |
7種 | “京都微研”フィライン-7 |
予防接種の費用
予防接種の費用の目安を紹介しますが、同じワクチンであっても、その接種費用は動物病院によってかなりの差があります。
気になる場合は、あらかじめ動物病院にご確認ください。
- 5種以上の混合ワクチン:3,000〜10,000円
- 3種混合ワクチン:3,000〜7,500円
- 単種ワクチン:3,000〜7,500円
動物病院にオススメなワクチンを聞きましょう!
動物病院によって、常備しているワクチンの種類は様々です。一般的に最低3種混合ワクチン、外に出る猫は5種以上の混合ワクチンが推奨されます。
生活環境(室内飼いか室外飼いか、多頭飼いかなど)や地域性などによって、より種類の多いワクチンや単種ワクチンの追加接種が推奨されることがあります。信頼する獣医師の勧めに従ったワクチンを選ぶのと良いでしょう。
なお、単種ワクチンはいずれとも最近開発されたもので、効果や副反応について未知な部分があるため、接種を積極的に勧めない獣医師も多いです。
予防接種は万能ではありません
予防接種したからといって安心しきってはいけません。ワクチンは感染を100%予防するものではありません。予防接種すれば感染症にならないと考えるより、致死的な病状に陥る可能性が少なくなると考えた方が良いでしょう。
また、ワクチンがない感染症もありますから、予防接種したとしても、室内飼いを徹底し、不特定多数の猫と接することがないようにすることが必要です。
毎年ちゃんと受けておきたい猫の健康診断について、『定期的に必要!?猫の健康診断にかかる費用まとめ』の記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせて参考にしてみてくださいね。
まとめ
予防接種は、愛猫を感染症から守るだけのものではありません。愛猫が感染症を他の猫にうつす可能性を無くすという意味でも重要なもの。
健康体に行う医療行為なので抵抗感があるかもしれませんが、飼い主として、予防接種はマナーとも言えます。
生涯にわたって接種するので、それなりの費用にもなりますが、感染症の治療費と比べたら、たいしたことではありません。予防接種したことがないとか、しばらく予防接種していないという飼い主さんは、早めに動物病院に行くことをオススメします。