日本の人間社会では、現在、高齢化社会という大きな問題に直面しています。4人に1人が高齢者、そして高齢者の介護で苦労するのが認知症ですが、犬も同じ病気になる可能性があります。
以前は獣医学もあまり発達しておらず、飼い方や人間の生活環境も全く現在とは異なっていました。
治療もあまり行われず、犬は10歳まで長生きしてくれれば、ぐらいの感覚がありましたが、今ではずっと寿命が延びて15歳を超える犬もたくさんいます。
長生きは嬉しいことですが、その分、老化現象の一つとして現れてくる認知症に遭遇する可能性が出てきます。病気のことを何も知らずにいるよりも、少しでも心構えとして知っておくべき内容をお話していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
犬も認知症になる!
人間の認知症で一番最初に家族が気づくのは、おそらく、どこか変、会話が成り立たない、物忘れがひどい、などでしょう。
犬の場合に当てはめてみると言葉で会話できない為、なかなか解釈が難しいと思います。ここでは少しでも病気が理解しやすいように、概要、原因、症状についてまとめていきます。
犬の認知症の概要
犬の認知症は人間と同様に高齢になると発症し、慢性に進行して行く病気で、脳にある神経細胞が失われて行きます。
犬は人間のアルツハイマー型認知症に似ているとも言われていますが、大型犬では6歳以上、小型犬では12歳以上になると、発症率が高くなります。
犬の認知症の原因
犬の認知症については、実はまだ詳しい原因はわかっていません。ただ、遺伝的に認知症になりやすい犬がいる可能性が考えられています。
犬の認知症の症状
認知症で一番重要なことは、日常生活の中でアナタの愛犬が前と違うことに早く気づいて、それが認知症であることを理解し、生涯寄り添って行くことです。
診断の際に症状の基準とされる”DISHA”というものがあります。
- Disorientation(見当識障害)
- Interaction changes(社会的交流の変化)
- Sleep-wake cycle changes(睡眠サイクルの変化)
- House soiling(不適切な排泄)
- Activity levels changes(活動性レベルの変化)
この基準に沿って、以下に飼い主さんがおかしいと気づく主な症状の例を紹介します。
これらの症状のどれか一つ以上があった場合で、これらの症状が出るような別の理由(病気)が存在しない場合に”認知症”と診断されます。(後に、認知症以外の別の病気の例を挙げます。)
見当識障害
- 慣れた場所や人がわからなくなる
散歩でよく通る道だったはずが、方向がわからなくなったり、また人に対しても、知っている人がわからなくなることがあります。 - 注意力がなくなる
何か目的を持った動きをせず、ぼーっとしたり、ただウロウロしたりすることがあります。
社会的交流
- 無反応になる
飼い主さんの呼びかけに応えない、すり寄って来る、玄関までお出迎え、などがなくなります。
睡眠サイクルの変化
- 寝る時間と起きている時間が逆転する
昼間は寝て、夜は起きている、というパターンになることが多いです。 - 夜鳴きをする
寝る時間が昼と夜と逆転した結果、夜には吠えて飼い主さんを困らせたり、近所迷惑で相談される方もいます。更に、足腰が強いと、家の中を徘徊するなども見られることがあります。
不適切な排泄
- 粗相する
トイレは躾ができてるはずなのに、不適切な場所に排泄をしてしまうことがあります。
活動性レベル
- 遊びたがらなくなる
いつも遊びが大好きだったはずが、全く、おもちゃなどに興味を示さなくなります。 - 以前に覚えたことを忘れる
訓練して覚えたはずの動作などを忘れることがあります。 - 新しことを覚えられない
新たな遊びや動作を訓練しても、なかなか覚えてくれません。 - 分離不安になる
以前は大人しく留守番ができたはずが、留守にしようとするとやたら吠える、留守中に何かを壊す、粗相する、などをしたりします。 - 攻撃的になる
何もしていないのに、突然、飼い主さんや周りの人に飛びかかったり、攻撃を仕掛けて来ることがあります。 - 食欲不振
食に興味がなくなる、或いは、食べていないことを忘れている可能性があり、あまり食べなくなることがあります。
※注意:これらは、あくまでも例であり、必ず同じような症状というわけではありません。
犬の認知症との鑑別
認知症の症状を見てみると、実は同じような症状が出る別の病気も当然考えられます。
例に挙げたような症状に気づいて、すぐに認知症だと思い込んでしまう前に、他の病気である可能性も知っておきましょう。獣医師はこれらの可能性も確認しながら、認知症の診断を行います。
粗相する
排尿場所の失敗は膀胱炎で頻尿であったりすることがあります。排便に関しても、たまたまお腹の調子が悪くて、間に合わない、ということも考えられます。
食欲不振
多くの病気は食欲がなくなります。例えば内臓のどこかに異常があることも考えられます。
無反応
犬が体調を悪くしている場合には、飼い主さんから隠れたがることもあります。
攻撃的になる
実はどこかに痛みがあって、偶然そこを触ってしまっていたことに飼い主さんが気づかない、という場合には攻撃して噛み付いたりすることもあります。
脳腫瘍
腫瘍の場所によっては、認知症と同じような症状が出ることがあります。
甲状腺機能低下症
高齢犬に多く、元気が無くなり、あまり遊びたがらない、動かずに尻尾も振らない、などの似たような症状が出ます。
犬が認知症になった時に飼い主が気をつけたい事
認知症と診断された場合、どのようなことに気をつけて生活をしていくかについて説明します。
飼い主さんの心構え
これはどんな慢性的な病気に対しても言えることですが、目標は、症状の進行がなるべく遅くなること、そして飼い主さんも認知症の犬も、お互いにストレスを少なくすることです。
粗相や夜鳴きなどの問題は非常に苦労しますが、決して叱らず、積極的に専門家(獣医師)のアドバイスを利用しましょう。
犬のストレスを減らすための方法は、『気をつけて!犬にとってのストレスになる要因とやってあげたいストレス解消法!』の記事でも詳しく紹介しています。
生活環境への配慮
以前はわかっていた自分の身の回りの生活環境も、わからなくなっていることが多いです。
留守番の際には、サークルを用意したり、普段も犬だけでの階段の昇降はさせないようにしましょう。落下事故の原因になります。
生活のリズム
食餌の時間や散歩の時間などは変更することなく、常に同じリズムでの生活を続けましょう。
睡眠時間のずれがある場合には、獣医師に相談して睡眠薬を使うことも有効であることがあります。
運動
関節炎などで動くことが辛い場合以外は、軽い運動を必ずさせましょう。
運動することは脳への刺激になり、肥満や他の病気を防ぐことにもなります。近所を軽く一周でも、運動のみならず、屋外の匂いを嗅ぐという行為により嗅覚への刺激も加わります。
コミュニケーション
認知症の愛犬と寄り添っていくにはコミュニケーションがとても重要になります。
例えば、体全体をマッサージしながら話しかける(血液の循環を良くする、話しかけるという刺激を与える)、ゲームをしたり、おもちゃなどで遊ぶ(遊びという脳への刺激を与える)、などは病気の進行を遅らせたり、改善したりする可能性があります。
人間と同じように脳を全く使わない状態では、病気は進行するのみです。
フード
認知症の犬に対する療法食やサプリメントが出ています。
これらは主に、ビタミンCやE、オメガ−3脂肪酸、などの栄養素で、認知症に対する効果が見られます。獣医師に相談しながら積極的に活用しましょう。
薬剤
現在のところ、特効薬はありません。睡眠時間の逆転などを改善させる、夜鳴きを軽減する、といった補助的な方法で使う薬剤などはありますから、獣医師に相談してみましょう。
犬の認知症の予防方法
人間の認知症予防もテレビなどでは盛んに紹介されていますが、犬の認知症も予防方法があります。
これらは完璧な予防ではなく、個体差もありますから、必ず獣医師の指導の下に試すようにしましょう。
フード・サプリメント
ビタミンCやEに代表される抗酸化物質が入ったフードやサプリメントは予防効果があると言われいます。
運動と遊び
毎日の軽い運動はどの病気の予防でも必ず言われることであり、認知症でも例外ではありません。
運動をして、飼い主さんとゲームをして遊んだり、少し頭を使うおもちゃ(ドライフードの粒を転がしながら出すなど)で遊ぶ、など、毎日の頭と体への刺激は重要です。
健康診断
最近では動物病院の健康診断キャンペーンが盛んに行われています。料金が安い上、沢山の検査を行うので、見た目は元気でも、隠れている病気を早期に発見して貰えます。
獣医師と密にコミュニケーションを取ることで、飼い主さんが気づかないでいた認知症のサインを見つけて貰える可能性もあります。
認知症は他の病気と同様に、早期発見が重要なカギになりますから、若い時から健康診断を利用しましょう。
まとめ
犬を飼い始めたら、私達よりもかなり早く老いを感じる時がやってきます。普段から犬とのコミュニケーションをしっかりと取り、常に犬の頭と体を活発な状態にしてあげましょう。
飼い主さんも、それを実行することで生活が単調にならず、お互いのメリットと言えます。
幸運なことに最近はペットの老化や認知症の研究が進んだお陰で、フードやサプリメント、補助器具、様々な物が手に入ります。認知症と診断されても諦めず、最期のその時まで、1秒も無駄にしないようにケアしてあげましょう。