犬の殺処分ゼロ運動という言葉を、聞いた事がある方は多いのではないでしょうか?
動物愛護が叫ばれ、犬はペットというよりも家族の一員という立場が確立されてきている今でも、殺処分されている犬は数多くいます。
ここでは、犬が殺処分されている現実を知っていただきたくて、それについてまとめてみました。運よく殺処分を免れた犬のその後についても紹介しています。厳しい表現もありますが、最後まで読んでいただけたら幸いです。
目次
犬の殺処分の現状
殺処分される数
犬の殺処分をゼロへ、などという言葉がだいぶ世の中に浸透してきているとは思いますが、それでも年間殺処分される犬の数は15,811匹います。
この数字は平成27年度中に殺処分された犬の数として、環境省が発表したものです。1日平均にすると、およそ43匹の犬が命を落としているという事になります。
それでも、過去10年間の殺処分件数の推移をみると、およそ10分の1にまで件数は減ってきてはいるのです。
これは、動物愛護法の改定や行政の力よりも、各地域の保護団体やボランティア活動をしてくださっている方達の力が大きく反映されている結果だと思います。
保健所に持ち込まれる犬たち
以前より数は減ったものの、保健所にはいまだに数多くの犬が持ち込まれます。残念な事に、飼い主さんによる持ち込みも少なくはありません。持ち込まれる理由は様々です。
- 犬が病気になったが、治療費が高くて払えない
- 高齢犬になり、面倒をみるのが大変
- 子犬の頃は可愛かったけど、思っていたより大きくなってしまって飼いきれない
- 無駄吠えばかりでうるさい
- 人に噛みつく
- 引越し先は動物を飼育できない
- 結婚して子どもが産まれるので、動物は飼えない
など、全てにおいて人間の無責任で勝手な言い分ばかり。飼い主さんに持ち込まれる以外では、迷子犬や捨てられた犬が野良犬化し、それが行政によって保護された場合などがあります。
迷子犬については、飼い主さんは必死で探していたとは思いますが、結果的に野良犬になってしまったというところを見ると、きっかけは全く違いますが捨て犬と同様にやはり人が関わっているという事が分かります。犬の殺処分をなくしていくには、人の意識改革がまずは必要な事のようです。
殺処分減少の背景
ここ数年で、保健所や保護センターにいる殺処分対象の犬を引き取り、里親を探す運動をする保護団体やボランティア団体が急激に増えてきました。そのおかげで、保健所に持ち込まれたものの助かった数多くの命があります。
また、平成24年に行われた動物愛護法の改正に伴い、保健所が持ち込まれる犬の引き取りを、理由によっては拒否できるようになりました。
しかし、引き取りを拒否された犬を今度は山奥などに捨ててしまう無責任な人や、保護団体の事務所前に捨てていく人も最近は多いです。
保健所に連れてこられてから殺処分されるまでの日数
命のカウントダウン
保健所に連れてこられた犬たちは、その瞬間から命のカウントダウンが始まっています。各自治体の規定やその時に収容されている頭数によって異なりますが、ほとんどの場合3日から10日の間に殺処分をされてしまいます。
この期日は、自分で食事を取れる犬の場合です。まだミルクを与えなければならない子犬の場合ですと、早ければ翌日には殺処分されてしまう場合もあります。
なぜなら、子犬は手がかかるからです。離乳前の子犬ですと、数時間置きにミルクを与えなければいけません。排泄も人の手が必要となります。
離乳後すぐの子犬も、食事はふやかして柔らかくして与えなければならないので、どうしても手がかかってしまいますが、残念ながら保健所ではそこまでの世話はしてくれません。
ドリームボックスの現実
犬の殺処分の方法は、各都道府県によって多少の違いはありますが、ここ数年で一番多いのは、炭酸ガスを使用する方法になります。
以前は毒物や筋弛緩剤を使用していたこともありましたが、コスト面や処理をする職員の安全性を重視するようになり、現在のガスが使用されるようになりました。犬が殺処分される部屋のことを、通称ドリームボックスと言います。
これには「夢を見ながら眠るように安らかに旅立てる」という思いが込められています。
これを聞くと、殺処分される犬たちは、最後は安らかに逝けるんだな、という誤解を与えてしまいますが、ガスを吸って死んでいく犬たちは決して眠るように死んでいくのではなく、苦しみながら死んでいきます。
この通称は、誤解を招きかねない大変危険な言葉ですが、込められている思い自体は処分に携わっている職員の方達の本心からの言葉なのかもしれません。そうなる前に保健所から里親として犬を引き取る方が増えて欲しいと願っています。
保健所から犬を引き取る方法を『犬を保健所から引き取る方法!犬の里親になるために』の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
ペットショップではなく、里親という選択肢も
保護犬を知ろう!
保護犬とは、保健所で処分される寸前のところを保護団体が引き取った犬や、多頭崩壊してしまった個人宅から引き取った犬、悪質なブリーダーから育児放棄にあっていたところを引き取った犬などを総称してそう呼びます。
最近ではテレビなどのメディアで多く取り上げられはじめているので、保護犬という言葉やその存在自体が世間に認知されてきました。
何の罪もない犬たちが、人間の勝手な行いで殺処分されていく現状をどうにかしたいという、強い思いを持った多くの人たちが犬を引き取り、世話をしながら、辛い思いをした犬たちが次こそは幸せに暮らせるようにと、新しい家族を探すお手伝いをしています。
里親制度
犬を新しく家族に迎え入れる時に、ペットショップから購入するのではなく、里親制度を利用して保護犬を引き取る事ができます。里親を探している犬の情報は数多く存在していて、インターネットや動物病院などで入手する事ができます。
各自治体の発行している広報誌などにも、犬の譲渡会のお知らせが掲載されていたりしますので、一度見学に行ってみてはいかがでしょうか。まずは現実を把握するところからはじめてみるのがいいかもしれません。
里親になる前に
保護犬を家族として迎え入れる事は本当に素晴らしい事ですが、里親になる前には大きな責任と、それなりの覚悟を持って欲しいと思います。
保護犬たちは、今までに辛い思いや悲しい思いをしてきた犬ばかりです。次こそは幸せになる権利があります。里親になる方は、責任を持って幸せにしてあげなくてはいけません。
それは無駄に甘やかすとか、贅沢をさせるという事ではなく、たくさんの愛情を持って犬に接し、最期の時まで一緒に過ごしてあげるだけでいいのです。
そんな事でさえして貰えなかった犬たちは、保護施設で人に慣れる訓練をしてきている事が多いですが、やはり心に負った傷は大きくトラウマになっている犬も当然います。
時には何かを思い出して吠える事もあるかもしれません。愛情をいっぱいかけても、心を開いてくれるまで少し時間がかかる事もあります。
そんな犬でも、責任を持って一生面倒をみる事ができるのかを家族全員で必ずよく話し合ってください。里親になる時には、家族全員が同じ気持ちでいる事がとても大切です。
保護施設を一度見学に行くのもいいかもしれません。現実を把握した上で話し合いをする方がイメージもしやすいかと思います。犬の里親になる方法については、『子犬は里親で探そう!子犬を里親募集で探す方法と引取方法』の記事でも詳しく解説しています。
里親になる為に知っておきたい流れと注意点
里親になると決めましたら、保護施設には何度か足を運んでください。
どんな犬が自分の家に合うのか、色々な犬の様子を確認することも大事ですが、保護施設自体の様子もきちんと確認するようにしましょう。安心出来る保護施設の条件をいくつか紹介しておきます。
犬の譲渡はすぐに行わない
犬の幸せを本当に考えている団体ほど、譲渡の条件が厳しいです。家族構成や先住犬の有無、犬の飼育経験などを細かく聞かれます。
犬の飼育環境を事前に確認するために自宅調査を行う団体も多いです。その結果、断られてしまう場合もあります。誰でもいいから犬を渡そうとは考えていません。
健康診断や避妊去勢手術を実施している
犬を施設に引き取った時点で、獣医師による健康診断を受けているのかを確認してください。多くの犬がいる保護施設では、感染症の持ち込みは本当に怖いものですので、施設内に入れる前には必ず健康診断をしているはずです。
特に、先住犬が居る場合には、病歴の有無は必ず確認する必要があります。成犬であれば避妊去勢手術の施術状況も確認するようにしましょう。
実費以外の請求はしない
引き取る時期によっては、ワクチン代の実費のみを請求する団体もありますが、それ以外の今までの飼育料金を請求したり、寄附金を強要したりする事はありません。
また、ケージやフードの購入が譲渡の条件に入っている事も通常はない事です。
トライアル期間を設けている
先住犬が居る場合にはトライアルは必須となりますが、そうでない場合にも1週間~10日程のトライアル期間を設けている事がほとんどです。
保護施設で短期間触れ合うだけではなく、実際に生活をしてみて犬と人やその家の環境も含めた相性を確認します。正式譲渡はトライアル終了後に行う場合が多いです。
次こそは良い飼い主さんに出会って、本当に幸せになって欲しいと願っている団体こそ、譲渡審査は厳しいです。犬の為を思っての行動ですので、そこは理解していただきたいです。
殺処分ゼロを実現させるために一人ひとりが考えたいこと
動物を飼うには覚悟が必要です
動物を飼い始めたからには、最期のその瞬間まで責任を持つのは当然の事です。犬は生き物ですから、飼っていくからには可愛いだけではなく苦労や面倒な事もたくさんあります。
日々の餌代や予防接種、病気になれば保険のきかない高額な治療費など金銭的な負担もかかってくるでしょう。厳しい事を言うようですが、それらをよく知らず、覚悟も持たずに動物は飼うべきではありません。
そして、それらをきちんと説明しないままに、安易に可愛さだけを売りにしている販売側にも、責任の一端はあるはずです。犬を迎え入れる前には、やがて老齢犬になって介護を必要とする時がくる事までを、想定してからにして欲しいと思います。
終生飼養を考える
現在では犬を飼うからには、終生飼養という事は必須となっています。ただし、飼育者側にはその意識浸透がまだまだ追い付いていない状態にあるのです。
最期の時まで責任を持って飼育する、という意識と責任を持つためにも、飼育開始前には講習を受けることを義務付けるなどして、可愛さに負けて衝動的に買う事のないような環境を強制的に作る事もいずれは必要になってきてしまうのかもしれません。
本当の理想は、強制的に意識を促すのではなく、終生飼養が当然という考えが全ての人に根付いていくことです。
迷子対策をとっておく
災害や突発的な出来事で、飼い犬が迷子になってしまう事もあります。迷子になった犬が、行政に保護され保健所へ連れて行かれた場合、そのまま殺処分されてしまう可能性もない訳ではありません。
この時に、犬の皮膚にマイクロチップを埋め込んでおけば、それにより飼い主さんのデータが引き出され家族の元に帰る事ができて、結果的に殺処分される犬が減る事に繋がります。
最近では、ペットショップで既にマイクロチップを装着して、販売しているところも増えてきています。
現在飼育中の犬にマイクロチップを装着したい場合には、この作業は医療行為になりますので、マイクロチップを取扱している獣医師にご相談ください。もし犬が迷子になった場合には、飼い主さんがすぐに行う行動は下記になります。
犬のマイクロチップについては、『犬にマイクロチップは必要?付けるメリットとデメリットまとめ』の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。。
最寄りの警察署に連絡
最寄りの警察署に電話をして、犬が迷子になったと伝えれば、担当部署に回してくれます。犬の特徴や居なくなった時間や場所などを聞かれますので、正確に伝える事が出来るように、メモに書いて用意しておくといいでしょう。
居なくなった場所や自宅が、県境や区境に近い場合には両方の警察署に連絡をしておきます。
警察は同じ県内であったとしても、情報の共有をしてくれませんので、保護される可能性のある管轄の警察署には、自分で全て連絡をいれておくようにしてください。
保健所や保護センターに連絡
警察に連絡したのと同じように、管轄の保健所や保護センターに連絡を入れておきます。保護センターでは情報共有をしている場合もありますが、全てではありません。
念の為保護される可能性のある場所には、自分で全て連絡を入れておく方が安心だと思います。
すぐに行う事はこの2点ですが、他には近所のお店や動物病院にお願いして、迷子犬の貼り紙をして情報を集める方法もかなり効果があるので、是非試してみてください。
ここで注意していただきたい事は、マイクロチップを装着しているからといって安心しないでくださいという事です。実は平成29年の時点で、全国全ての警察署や保健所にはマイクロチップリーダーは完備されていません。
大きな災害の後には、飼い主さんと離れ離れになってしまった犬が多数いました。行政はその時に、マイクロチップの普及活動を行っていましたが、いまだにリーダーの完備は追い付いていない状況です。早急に全ての警察署や保健所へのリーダー設置を望みます。
避妊去勢手術をする
手術をするなんて可哀想だからと、避妊や去勢手術をしないままに、オスとメスを一緒に飼っていればいずれ子犬が産まれる事も当然あるでしょう。
犬は1回の出産で4~5匹の子犬を出産します。子犬は可愛いけれどこれ以上飼う事はできないし、子犬ならすぐに貰い手が見付かるだろうという安易な考えで保健所に持ち込む飼い主さんもいるのです。
最近ではそのような持ち込みの場合は、保健所の方が受け取りを拒否します。その後自分で責任を持って貰い手を見付けてくれればいいのですが、保護団体施設の前に夜中のうちに置いていく人も少なくないのが現実です。
子犬を産ませる気がないのであれば、適切な時期に避妊去勢手術を受けさせる事も飼い主さんに課せられる責任になります。同じ命にもかかわらず、現在飼っている犬は大切にするけれど、産まれてきた子犬は大切にしないというのはおかしな話です。
万が一子犬が生まれてしまい、里親を探さないといけないようになった場合については、『子犬を拾ったら里親を探そう!引き受けてくれる人を探す方法』の記事で詳しく解説しています。
まとめ
犬の殺処分や、新しい家族との出会いを待っている保護犬についてまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。少し気持ちが重くなってしまうような部分にもあえてふれさせていただきました。
最近では、犬の殺処分ゼロを掲げる議員さんもいらっしゃいますが、それが現実になれば本当に喜ばしい事です。
ただし、現在殺処分される犬が減ってきている背景には、飼い主さんの意識向上は勿論あるのですが、それよりも保護団体の皆さんの活躍があるからこそになります。
殺処分されるはずだった犬を、その寸前で保護をしている事で処分数自体が減っているのは確かです。
では、保健所に持ち込まれる頭数自体はどの程度減っているのでしょうか。この持ち込まれる頭数自体を失くしていかなければ、本当の意味での殺処分ゼロではないと思います。
保護団体の方がいくら頑張っていても、このままのペースでは数年後には保護施設もパンクしてしまうでしょう。
一部の行政では、保護施設を新設するという提案も出されています。それは悪い提案ではないとは思いますが、もっと根本的解決に繋がる方法を、ペット後進国と言われている日本は更に真剣に考えていかないといけないと心から思います。
今後一人ひとりが考えるきっかけ、そしてきっかけだけじゃなく意識がこれまで以上に変わってくれること、更に少しずつのこういった問題に対して取り組む方が増えてくれれば保護活動されている方や生き物たちは報われます。そんな世の中になればとそう思います。