甲斐犬は、猟犬ゆえの攻撃性と警戒心を持った犬種ですので、しつけが難しいといわれますが、実はそのようなことはありません。
もちろん甘やかすだけの育て方では、とんでもないわがままな犬に育ってしまうかもしれませんが、それは甲斐犬に限ったことではありませんよね。
甲斐犬のしつけは、飼い主さんが毅然とした態度で行う必要があります。
今回は、甲斐犬のしつけについて、その必要性や大切なこと、うっかりやってしまいがちな間違ったしつけの仕方まで紹介していきますので、是非参考にしてください。
目次
甲斐犬の正しいしつけ方
犬のしつけとは
「犬を飼うならしつけをきちんと行うべき」という言葉をよく耳にするでしょう。この犬の「しつけ」には、色々な意味が含まれています。
一緒に暮らしている犬は家族の一員とはいっても、やはり犬と人では身体の作りからはじまり、生活習慣など様々な面で違いがあります。
そんな全く違うもの同士が一緒に生活をしていくのですから、一定のルールは必ず必要になってくるでしょう。
例えば
- 排泄は決まった場所でする
- 家族を含め、不必要に人に向かって吠えない
- 噛むなどの行為はしない
- 「待て」などの制止に従う
- 呼ばれたら戻る
1と2については、人と一緒に暮らしていくためのルールであり、3~5については、犬自身の命を守る意味合いがあります。それぞれについて詳しく説明していきます。
トイレのしつけ
子犬を家に迎え入れてまず行うしつけが、トイレトレーニングであることが多いと思います。
子犬は、寝起き・食事前・食事後・遊びの後など排泄のタイミングが大変分かりやすいので、そのタイミングには目を離さずに、排泄をし始めたら「おしっこね」などと決まった単語で声かけをしていくようにしましょう。
すると、その単語と排泄行動が犬の頭の中で結び付いていきますので、外出時にもその単語を発することでそこが排泄の場所だと理解するようになります。
甲斐犬の場合、子犬のうちは室内で飼育し、時期をみて室外飼育に切り替える方が多いのではないでしょうか。
通常の排泄は散歩時に行うようになると思いますが、この時にもこの単語を常に発するようにしておくと、決められた場所でしか排泄を行えないような状況になった場合でも、上手に排泄をすることができるようになります。
吠える行為
犬が吠えて欲しくない時に吠えてしまうことを「無駄吠え」といいますが、それは人の勝手な考え方だとまず認識してください。
人は誰かに自分の意思を伝えたりする時に言葉を発しますが、犬の吠えもこの行為と同じです。
玄関のチャイムが鳴ったり、家の目の前の道路を誰かが通過したりした時に犬が吠えるのは、家族以外の人間に対して警戒し危険を伝えていることになります。
散歩の要求やおやつの要求で吠えるのは、自己主張の表れです。その他にも犬が吠える時には、それなりの理由が必ずあるといえるでしょう。
甲斐犬は、やたらに吠えるということをあまりしない犬種ではありますが、大変警戒心が強い性質を持っています。
知らない人や、初めて聞くような音には異常に反応を示して吠えることがありますので、子犬のうちから色々な音に慣れさせておくといいでしょう。
初めてのお客様にはどうしても最初は吠えてしまうかもしれませんが、飼い主さんが友好的に接している人だと分かれば、次からは吠えなくなりますので、吠えたからといって「うるさい」と叱るのではなく、「この人は大丈夫だよ」と静かに教えて安心させてあげてください。
噛む行為
子犬のうちは甘噛みが付き物ですが、子犬だからいって放置はせずに、きちんとやめさせるようにしましょう。子犬が甘噛みをしてくる理由にはこのような理由があげられます。
- 歯の生え始めや抜け代わりで、歯が痒いのを解消したい
- かまって欲しいアピール
- 嫌な行為への抵抗(甘噛みではなく威嚇行為に発展する場合あり)
それぞれについて更に掘り下げていきましょう。
犬の甘噛みについては、『犬が甘噛みする理由とは?甘噛みのサインと止めさせる方法』の記事でも詳しく解説しています。
歯が痒い時
甲斐犬に限らず、子犬は歯の生え始めや生え変わりの時期には、歯を痒がって何かを噛みたがります。
これは必ず起こることですが、この時に「仕方がないから」などと甘やかして、人の手を噛ませたままにしておくと、人の手は噛んでいいものだと学習してしまうでしょう。
噛む行為をしてきたら、すかさず「痛い!」などと声を出して制止させます。一緒に遊んでいる最中でしたら遊びも中断です。
ダメなことはダメだと、子犬のうちからしっかりと教えていくようにしてください。
ただし、歯が痒いのは成長過程で必ず起こってしまうものですので、噛みたい欲求を満たしてあげるために、噛んでいいおもちゃなどを与えるようにしてください。
かまって欲しい時
甲斐犬は猟犬の性質を持っていますので、動くものを追いかけようとする本能があります。
他の犬種の子犬でも、動く物を追いかけて遊ぼうとするのはよくあることです。
甲斐犬はその本能が特に強いので、飼い主さんの足だとは認識せずに、飼い主さんの近くで何か動くものがある、捕まえて飼い主さんと一緒に遊んでもらおうなどと思っているかもしれません。
このような時は、歯が痒い時の甘噛みと同様に、「痛い!」や「ダメ」などの単語で叱りすぐにやめさせます。
子犬は好奇心が旺盛で大好きな飼い主さんと一緒に遊びたくて仕方がありませんので、ダメなものはダメをきちんと叱り、遊ぶ時にはたっぷりと遊んで満足させてあげるように、メリハリを付けた生活をしていくようにしましょう。
威嚇行為の噛み
何か自分の意にそぐわないことが起きた時に、歯を剥き出して威嚇行為をし、その後噛みつく場合があります。
これは本当に危険な行為です。特に甲斐犬は猟犬気質の攻撃的な面も持っていますので、子犬うちにきちんと矯正をしておくことは必須となります。
威嚇行為の矯正は、主従関係とも密接してきますので、こちらについては後の項目で、更に詳しく紹介していきましょう。
「待て」などの制止や呼び戻し
飼い主さんの出した号令に応じて、その場で「待つ」ことや、名前を呼んだら必ず戻ってくるということを教えておく必要があります。
これは、飼い主さんの言うことをきちんときく「いい子」に育てるためではなく、犬自身の命を守るために教えておいて欲しいことです。
例えば、災害時や突発的にリードや首輪が外れてしまった場合など、それをきちんと身に付けさせておけば、好き勝手なところに走り出して事故などに合う危険性がなくなります。
主従関係を構築する
甲斐犬を飼育していくうえで、主従関係の構築は必ず必要になってくるでしょう。古くから甲斐犬の繁殖を行っている人たちは、「服従訓練」という言葉を使う人もいます。
服従や主従関係などという言葉は、とても威圧的で抑え付けて言うことをきかせるという風に聞こえてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。
主従関係とは、誰がリーダーであるのか立場を明確にしておくという意味になり、服従訓練とは、服従のポーズである「伏せ」の姿勢で待つことを教える意味になります。
甲斐犬は、家庭犬として穏やかな生活を送っていても、猟犬としての攻撃的な性質は消え失せることはありません。それは何世代にも渡って本能として染みついているからです。
それと同時に主人に忠誠を誓うという性質も合わせ持っていますので、誰がリーダーであるのかを明確に示してあげた方が、犬のためにはなるといえるでしょう。
なぜなら、犬はリーダーの言うことに従っていけば、安心を得られるからです。
誰がリーダーであるのか、あやふやな関係性のまま生活をしていくと、犬は自分や仲間である飼い主さんやその家族を守ろうという考えを持つために、常に警戒心を持ち続け神経を尖らせていくようになってしまいます。
その警戒心が攻撃的な行動に移ってしまうこともありますので、リーダーは飼い主である自分だということをきちんと示し、指示に従うように教えていくことで犬はリーダーに守られる立場に代わりますので、余計な警戒心を抱く必要がなくなり穏やかに過ごしていけるようになるのです。
主従関係不要論と信頼関係
昨今、犬と人との間には主従関係は不要だという説が出てきています。
犬はコミュニケーション能力にたけているので、主人としての立場で従わせるのではなく、家族や友人という信頼関係を築くべきということのようです。
甲斐犬との生活も、もちろん信頼関係は必要となります。むしろ信頼関係を築けていなければ、先に紹介した主従関係など構築することはできません。
甲斐犬に限らず犬を迎え入れた時には、まずは信頼関係を築いていくことから始まります。
なぜなら、様々なしつけをしていくには、信頼関係がなければ何も進んでいかないからです。
そして、これも甲斐犬に限らずですが、犬の持つ歯と顎の力は凶器となり、本気で噛みつけば人の手の骨を噛み砕くほどの力を持っているでしょう。
どんなにしつけが行き届いていて、普段誰にでも問題なく触らせるフレンドリーな犬であっても、
いつどこでスイッチが入ってしまうかは、長年一緒に暮らした飼い主でも分からないことがあります。
万が一のことが起こりそうになった時、主従関係がきちんと構築されていれば、腕力で犬を抑え付けるのではなく、リーダーが許していないことはしてはいけないと、犬の意識に働きかけをすることができます。
信頼関係を築き、その次の段階として主従関係を構築していけば、リーダーである飼い主に向かって歯を剥きだして噛むということはまずしません。
攻撃的な面を持つ甲斐犬だからこそ、信頼関係と主従関係の構築は必須なこととなるでしょう。
主従関係によって噛む行為をコントロールすることは、飼い主である自分の身を守るためだけでなく、犬が自分自身の身を守ることにもなります。
もしも何かのきっかけで家族以外の人に噛みついて怪我でもさせてしまった場合、状況によっては犬の殺処分を要求されるかもしれません。
このような事故を起こさないためにも、噛まないようにするためのしつけは、子犬のうちから必ず行う必要があります。
体罰を使うしつけの弊害
人同士のように、言葉で説明して分かる場合には「叱る」という行為も有効性がありますが、犬は人の言葉の細かい意味までは認識できませんので、叱る時にはその行動をした瞬間に行わなくてはいけません。
これは簡単なようで実はかなり難しいことです。
少しでも時間が経ってしまうと、犬は何に対して叱られたのか全く分からず、不信感を抱くようになってしまいます。
叩くなどの体罰を使用するしつけも、子犬のうちは力で抑えつけることができますので、その時制止するには有効かもしれません。
ただ、犬は叩かれたからその行為をやめただけであって、いけないということは理解せずに痛い思いと不信感だけを募らせていくでしょう。
そして成犬になるに連れて力で抑え付けることは難しくなっていき、子犬の頃から抱いた不信感はいずれ攻撃として返ってきてしまうかもしれません。
褒めることの重要性
犬のしつけをする時には「叱る」よりも「褒める」ことに重点をおきましょう。
子犬が何かを上手にできた時には、大袈裟と思えるほどに褒めてあげてください。
おしっこがトイレで上手にできたら褒める、おスワリができたら褒める、些細なことでも構いませんので好ましい行動をした時には、すかさず褒めちぎってあげましょう。
犬は飼い主さんが笑顔で褒めてくれると、とても嬉しい気持ちになります。
また褒められるようにしようという気持ちが芽生え、褒められた時にしていた行動を繰り返し行うようになり、その結果自然と学習していくようになるでしょう。
甲斐犬の間違ったしつけ方
しつけの際の5つの間違い
甲斐犬に限らず、子犬は可愛くて何をしてもつい許してしまいそうになりますが、まだ子犬だからといって甘やかしてばかりいると、結果的には飼い主である自分が困ることになってしまうかもしれません。後々困らないために、よくありがちなしつけの間違いを5つ紹介していきます。
- 注意する時に名前を呼ぶ
- お散歩は自由気ままに犬の言いなり
- 頻繁な抱っこ
- 排泄の失敗を叱る
- 犬が嫌がることは必要であってもしない
これらが何故いけないのか、順番に説明していきましょう。
注意する時に名前を呼ぶ
犬に注意をする時には「ダメ」や「NO」など単語で指示するようにしましょう。
犬には「自分の名前」という概念は残念ながらありません。飼い主さんが「名前」を声に出して発する時に側にいくと、おやつが貰えたり撫でてもらえたりと嬉しいことがあるために、「名前」を呼ばれると側に近寄っていったり尻尾を振ったりするのです。
そのため、叱る時に「○○ちゃん、ダメ」などとしてしまうと、「名前」に対して嫌なイメージをインプットしてしまい、呼んでも側に来なくなってしまいます。
お散歩は自由気ままに犬の言いなり
犬がグイグイと先に進み、飼い主さんを引っ張って歩いている光景を見掛けたことはありませんか?
犬が人の一歩前を歩く程度でしたら問題はありませんが、進む方向はリーダーである飼い主に決定権がなくてはいけません。
外で自由気ままに行動する習慣を付けてしまっては、突発的なことが起こった時に対応できないだけでなく、犬は飼い主の指示に従わなくなってしまいます。
散歩1つとっても、常にリーダーの指示に従って行動するようにしていきましょう。
頻繁な抱っこ
子犬の頃はついつい抱っこしたくなってしまいますが、これにも限度があります。
常に抱っこばかりする癖を付けてしまうと、犬は飼い主さんにどんどん依存していき、飼い主さんが居ないと落ち着かなくなってしまいます。
自分だけでの留守番時には、飼い主さんが側に居ないことに不安を感じるようになり、そのストレスから物を壊したり吠えたりするなどの問題行動に発展してしまうこともあるでしょう。
抱っこをするなとはいいませんが、犬が望むからといってそれに常に対応することはせず、飼い主さんのタイミングで行うようにして、回数も適度に抑えるように心掛けましょう。
排泄の失敗を叱る
トイレトレーニング中の失敗は付き物です。最初は上手にできないのは当然なのですが、失敗が続いてしまうと、片付ける方はたまったものではありませんよね。
ついつい声を荒げて叱ってしまうこともあるかもしれません。でも、これは絶対にしないようにしてください。
排泄の失敗は叱らず、見付けても騒がず黙々と片付けることに徹しましょう。
犬は失敗しているつもりはありませんので、排泄したこと自体を叱られると思い、隠れて排泄をするようになることや、最悪の場合は排泄を我慢して病気になってしまうこともあります。
いずれは覚えてくれますので、根気よく諦めずに教えていくようにしましょう。
犬が嫌がることは必要であってもしない
ブラッシング・爪切り・シャンプーなど、犬が嫌がるけれども、必要なケアはいくつもあります。
嫌がることを無理強いしては、犬も益々強硬に嫌がるようになってしまうでしょう。
例えば、爪切りを嫌がるのであれば、1日に全てをやろうとせずに1日1本ずつ切っていくようにします。たった1本でも我慢をすることができたら、大袈裟なくらいたくさん褒めてあげましょう。
ブラッシングを嫌がるのであれば、まずはブラシに慣れさせることから始めます。
ブラッシングはせずに、ブラシだけを体に少し当ててみるなど、嫌な物であるという認識を変えていくところから始めてください。
甲斐犬は新しい物や初めてすることに警戒心を強く持ちますので、子犬のうちから爪切りもブラシも時々触らせたり見せたりして、その物自体に慣れさせておく必要があります。
甲斐犬に必要な餌の量や与え方
最適な餌の選び方
甲斐犬は筋肉質な体型であり、運動量も多い犬種のため、健康を維持していくにはタンパク質の摂取が大切になります。
そのため、鶏肉などが原材料に多く含まれている餌を選ぶのがおすすめです。
犬の餌は、そのパッケージに原材料として使われている分量が多い順に記載をされていますので、最初に鶏肉やラムなどの食肉が記載されているものを選ぶようにしましょう。
月齢に合わせた餌選び
餌を選ぶ時には、その犬の月齢や年齢も考慮しなくてはいけません。
1歳までの子犬には子犬用の餌を与えるようにしましょう。子犬の頃には体を作るために必要な栄養素が豊富に必要となります。
成犬用ではその栄養素が充分でない場合がありますので、1歳を迎えるまでは必ず子犬用の物を用意してあげてください。
そして7~8歳を過ぎた頃には、シニア用の餌に切り替えるようにしましょう。
高齢になってくると運動量も段々と減ってきますので、肥満気味にならないように高タンパク質でありながら低カロリーのものがおすすめです。
穀物不使用(グレインフリー)
肉食動物である甲斐犬は、体質的に穀物を消化するのがあまり得意ではありません。
消化しきれずに体内に残った穀物が少しずつ蓄積されていき、それが原因でアレルギー性皮膚炎を起こすこともあります。
これは必ずしも穀物が原因というわけではないのですが、一つの可能性として考えられますので、避けて通れるのであればそうしてあげましょう。
最近では穀物不使用の餌はたくさんの種類が販売されていて、ホームセンターなどでも手軽に購入することができます。
餌の与え方
犬の餌はそのメーカーや種類によって、1回に与える適正量には違いがあります。餌のパッケージに記載してある必要量と、犬の体重を考慮して1日に与える量を計算してください。
成犬であれば、食事の回数は朝と晩の1日2回程度とし、新鮮な水と一緒に与えるようにしましょう。
食後に散歩に行く予定であれば、最低でも食後30分は休ませて消化を促してから出発するようにしてください。
手作り食
自分で作った手作りの食事を与える人が最近は増えてきています。
愛情のこもった手作り食は大変微笑ましいものではありますが、犬の健康維持に必要な栄養素を全てきちんと摂取させるための手作り食を作るのは、実は大変難しいです。
そのため、どうしても手作り食を希望するのであれば、総合栄養食であるドッグフードを主食とし、トッピングとして手作りの食事を少量そこに乗せてあげる方法がおすすめです。
総合栄養食は、それだけで必要な栄養素やカロリーは含まれています。別の食材をトッピングして付け足す場合には、その分カロリー過多になりますので、フードの量を少し減らす工夫も必要です。
ここまで甲斐犬のしつけ方について紹介してきましたが、甲斐犬の性格や特徴についても知っておきたい場合は、『甲斐犬の性格や特徴を知っていますか?日本古来の甲斐犬完全ガイド!』の記事も合わせて読んでみてくださいね。
まとめ
甲斐犬のしつけについて紹介してきましたが、参考になりましたでしょうか。
本文中で何度も触れていますが、甲斐犬は一部で言われているように、攻撃性が強い部分が確かにあります。
ただしこれは、しつけの仕方次第でコントロールすることは十分可能です。
甲斐犬は大変賢い犬種ですので、ケジメのある正しいしつけを行えば飼い主に忠実で穏やかな大変飼いやすい犬となります。